2012年6月7日木曜日

民間活力導入の状況


 民間企業や地域住民、NPOなどの「民間活力の導入」は、私の
歴史的使命であることを、市長就任以来、このかじとり通信でも機
会を捉えて申し上げてきました。「行政がやれば安心」という考え
は神話にすぎず、むしろ民間の発想や競争原理によって、市民の皆
さんに多様で満足度の高いサービスを提供できると考えてきました。

 民間活力の導入といっても、その手法はさまざまです。突き詰め
れば、行政の監督の下に、民間が一定の権限と工夫で事業を行うか、
原則として行政から離れて民間の責任で事業を行うかの違いで、両
者の間にはさまざまなレベル、程度の違いがあり、具体的には行政
と民間事業者とが、協定などで決めることになるのでしょう。大き
くは、次の2つに分けられます。
(1)行政の事務、事業、公共施設を民間へ移管する「完全民営化」。
この場合、民間が責任を持って事業を行うことになります。
(2)行政がその業務や公共施設の管理に責任を持ちつつ、業務や
施設管理の一部を民間へ委託する「民間委託」。このうち、公共施
設の管理運営を民間などへ包括的に委託するのが「指定管理者制度」
です。この場合、事業自体は行政の責任で実施されますから、民間
は与えられた権限の範囲で運営することになり、したがって、あま
り自由度はないかもしれません。

 公共事業について、計画から資金調達、建設、運営に至るまでを
民間に委ねるのが「PFI事業」です。この事業は、民間資本を導
入して公共施設を建設し、例えば最初の10年間その施設を民間が
経営して利益をあげ、その後、行政が引き取り運営を継続するとい
ったもので、民間が経営する期間は(1)に近いのですが、その後
は(2)に近い状況も出てきそうです。

 そして、民間活力の導入を進める対象事業の要件には、「住民サ
ービスの質が落ちないこと」「市場における競争原理が働くこと」
「行政コストが削減できること」の3つがあり、この要件に当ては
まる事業は、全て民営化、民間委託などの対象だと考え取り組んで
きました。

 これまでの主な取り組みは、
・斎場(火葬業務)の民間委託
・第二学校給食センターの民間委託
・上下水道料金徴収・収納業務の民間委託
・東部浄化センター、犀川浄水場の管理業務の民間委託
・PFI手法による温泉施設「湯~ぱれあ」の建設
・市有施設の管理運営に「指定管理者制度」を導入(333施設:
本年4月1日現在)
・公立保育所の民営化
などですが、もちろん十分ではありません。いくつか難しい課題も
あり、簡単には民営化といかないのです。

 第1に、公立保育所の民営化について言えば、保護者の皆さんの
ご理解を頂くためには、十分な説明と時間が必要になることです。
行政がやっていれば安心という「神話」は、行政の責任者としては
ありがたいのですが、実際は民間が工夫した取り組みには素晴らし
いものがありますし、行政ではできないことにもどんどん挑戦して
いただくことにより、新しいサービスなども生まれてくるでしょう。

 第2は、職員の雇用という課題です。例えば第二学校給食センタ
ーの民営化が行えた理由の一つは、正規職員全員が、他の市営給食
センターに異動することができたことにあります。非常勤職員は運
営受託会社に紹介し、雇用を継続していただきました。
 しかし、今後さらに民間委託を進めようとした場合に、同じよう
に正規職員が異動できる職場があるとは限らないのです。地方公務
員法には、同法で定める事由による場合でなければ、職員の意に反
して、免職などができないという、いわゆる身分保障の規定があり
ます。法解釈によっては、こうした組織の改廃の場合に職員の免職
(リストラなど)ができるとも聞いており、法的には可能なのかも
しれませんが、雇用を守ることは道義的にも当然のことですし、今
の良好な労使関係をあえて覆すようなことをやるべきではないと感
じています。民間活力の導入に当たっては、雇用の継続も重要なポ
イントです。

 最近の出来事としては、公立保育所の民間委託の一環として、本
年4月に川田保育園の運営を民間に委託(民営化)しました。
 川田保育園の民営化については、2003(平成15)年度に保
護者の皆さんに説明し、その後、長年にわたり話し合いを行ってき
ましたが、いよいよ民間への運営委託という形でスタートしました。
民営化するに当たっては、保護者の皆さんからのご意見、ご要望を
お聴きするとともに、保護者、有識者などで構成する「長野市立保
育園委託・移管先選考委員会」での選考を経て、市内で認定こども
園を運営する「学校法人朝陽学園」が委託先として決定されました。
 昨年4月からは、朝陽学園と市の保育士が合同で引き継ぎ保育を
実施するとともに、保護者、朝陽学園、長野市による「3者懇談会」
を定期的に開催し、保護者の皆さんの民営化に対する不安の軽減に
努めるとともに、民営化後の川田保育園の目指す保育についても話
し合いをしてきました。

 川田保育園の民営化は、私が市長に就任以降、公立保育所では3
例目となります。2009(平成21)年4月の三輪保育園が最初
の民営化保育所となり、その後昨年4月に、城東保育園を閉園し、
運営を隣接する済生会長野保育園に移管・統合しました。来年度に
は、下氷鉋保育園を民営化する予定で、現在準備を進めています。
 公立保育所の民営化は、長野市の基本的な方針の一つです。保護
者や地域の皆さんのご理解とご協力を頂きながら、少しずつ進めて
います。

 また、公立保育所の民営化については、2005(平成17)年
度に、長野市のこれからの幼稚園・保育所および幼保一体化のあり
方を検討するため、「長野市保育所等のあり方懇話会」で審議をし、
提言をいただきました。当初に計画した3つの公立保育所の民営化
にめどが付いたことから、この提言に基づいて、本年度から新たな
計画の策定に着手し、2013(平成25)年度から2022(平
成34)年度までの10年間における公立保育所の統廃合などを含
む適正規模および民営化などの基本的事項を定めることにしました。
 
 計画の策定に当たっては、市民各層の皆さんから広くご意見をお
聴きするため、6月4日の長野市社会福祉審議会に私から諮問しま
した。今後、同審議会の児童福祉専門分科会でご審議いただき、来
年の2月ごろに答申を頂く予定となっています。

 市長就任以来、私が掲げてきた5原則「入りを量りて、出ずるを
為す」「市民とのパートナーシップ」「簡素で分かりやすい市政運
営」「民間活力の導入」「無私・利他の精神」は皆さんご承知のこ
とと思います。しかし、就任から10年が過ぎ、各項目を検討して
みますと、「民間活力の導入」が一番遅れているのではないかと感
じています。時間がかかっても、市民の皆さんのご理解とご協力を
第一に考え、皆さんの合意の下で一歩一歩進めていくことが重要で
あると考えてきましたし、これからもこの考えを基本とし、推進し
ていきたいと思っています。

 前回のかじとり通信で、私が長野市開発公社の理事長に就任した
ことを報告し、市長が他団体の長を兼ねることは望ましくないとお
伝えしましたが、まさに長野市開発公社のような組織の長には、民
間出身の方を登用すべきだと考えています。同様のことは市民病院
の理事長職についても言えそうです。ただこれらの職に民間出身者
を登用する場合には、それ相当の報酬を保証する必要があります。
一方、市長が当て職で就任する場合は当然無給ですから、組織運営
上は安上がりです。もちろん、民間出身の方に、報酬以上の素晴ら
しい成果を挙げていただくことが理想でしょうが・・・。株式会社
エムウェーブの社長については、民間出身の土橋文行前社長がお亡
くなりになった後、しばらく空席でしたが、ようやく民間出身の素
晴らしい土屋龍一郎氏をお迎えすることができました。

 これからも、「民間でできることは民間に」という流れはどんど
ん進むはずです。民間活力の導入により、高度経済成長期以降肥大
化した行政のスリム化が図られ、小さな政府に一歩ずつ近づき、
「お任せ民主主義」の時代から脱却が図られてくるでしょう。そし
て、私が申し上げてきた「市民の皆さんとのパートナーシップによ
るまちづくり」のとおり、市民の皆さんが主役となり、コミュニテ
ィーの再生、「自分たちの地域は自分たちでつくる」といった都市
内分権が発展するのです。

 さらに、行政が担ってきた事業を民間事業者が実施することで、
民間に新たな仕事、ビジネスチャンスが生まれ、工夫によって新た
な産業に発展する可能性も出てきます。産業が活性化し、企業誘致
の促進、そして何より雇用の拡大といった効果が期待できます。行
政にとっても税収が上がり、社会全体が好循環し、元気なまちが実
現するのです。ただ民間組織のやり方によっては、例えば倒産のよ
うな失敗もあり得ます。
 引き続き民間活力の導入を可能な限り進めるよう、今後も大いに
頑張っていきたいと考えています。