2012年6月21日木曜日

全国市長会議のために上京しました


 6月5日、6日、東京で全国市長会議が開催されました。この会
議では、関東、北信越、東海といった全国9支部から提出された国
の施策に対する要望などの議題を各市長が審議し、全国市長会の要
望としてまとめています。まずは総会に先立ち、各支部から提出さ
れた87の要望事項について、各市長が4つの分科会(地方行政関
係、地方税財政関係、厚生労働・環境・文教関係、国土交通・農林
水産関係)に分かれて審議し、その結果を総会において報告し、ま
とめました。

 ただ、この種の会議で審議される議題は、各市から出されたさま
ざまな意見を県単位でまとめ、さらに支部単位でまとめたものです。
そのため、一般的に極めて常識的なテーマ、あるいはほとんど全て
の市に共通したテーマとなり、正面切って賛成・反対するような議
論には、なかなかなりません。具体例としては、昨年、和歌山市で
開催された中核市サミットにおいて私から「市町村が行う福祉施策
は、他市町村より手厚い支援を独自に設定する事態が生じている。
このため、地方自治体間のサービス競争を引き起こし、福祉関連の
予算が増えていく一つの要因である。これを是正するためには、国
・地方が行う社会保障の範囲および水準を国がしっかり決める必要
がある」と申し上げました。しかし、国が統一基準を定めることは
地方分権の趣旨に反するという考えもあり、議論すべき事項として
取り上げることは難しいのでしょう。その結果、当たり前のことを、
当たり前のように決議して国に要望することになってしまいます。
もちろん、それぞれの要望事項は重要なテーマであることは間違い
ありませんし、個々の意見を取り上げていたら、収拾が付かなくな
ることも事実です。

 全国市長会議のもう一つの目的は、最新の国会の状況や国の施策、
動向について研修会を開催し、各市長と省庁の担当者が直接意見交
換をすることです。財政に関するテーマが多く、今後の方向性は示
されるのですが、政治主導の流れの中、国がまだ決定していない事
項が大半で、あまり参考にならないことも多々あると感じています。
研修会は分科会ごとに開催され、今回私が参加した地方行政関係の
分科会では、総務省自治行政局長から「当面の地方自治制度の課題」
として、高齢化、人口減少などの社会構造が変化する中、大都市が
抱える課題解決に向けた大都市制度見直しの検討状況、個人を識別
するためのマイナンバー法案などについて説明がありました。参加
した市長からいくつか質問が出ましたが、時間が限られていて、踏
み込んだ議論までには発展しませんでした。

 参加市長が一堂に会す総会には、来賓として野田佳彦内閣総理大
臣や川端達夫総務大臣も出席され、それぞれ方針を述べられていま
したが、新聞・テレビなどで報道されている範囲を出るものではな
く、正直退屈でした。政局が微妙な折、仕方ないことではあります
が・・・。総会では、各分科会において審議された「地方分権・地
域主権改革の推進」「医療保険制度の抜本改革」「防災・災害・危
機管理対策、環境施策、都市基盤施策、農林水産業、経済・雇用施
策の充実強化」など、次々と議案が報告され、全て全国市長会の要
望としてまとめられました。

 全国市長会議終了後、「現場から国を変える首長の会」主催の勉
強会に参加しました。東洋大学の根本祐二教授が講師で、題目は
「朽ちるインフラ 崩壊を避ける知恵 シティ・マネジメント」で
した。根本さんの著書「朽ちるインフラ」はベストセラーになりま
したし、先日NHKの番組「シリーズ日本新生 橋が道路が壊れて
いく・・・ インフラ危機を乗り越えろ」にも出演されていました。

 1960年代、日本は高度経済成長の真っただ中で、今の都市基
盤となる大型建築物、道路、橋、水道などのインフラが次々と建設
されました。しかし、あれから50年がたち、当時建設したインフ
ラは老朽化し、今後膨大な維持費、更新費用が掛かってきます。景
気の低迷が続き、今後大きな税収増が見込めない中、こうしたイン
フラの維持・更新費用の増大に自治体はどう対処すべきかという内
容でした(実は先月、長野市の全部課長が集まる会議の中で、先ほ
どのNHKの番組を例に取り、今後インフラの維持・更新費用がか
なりの負担増となることをしっかり認識して業務に当たるように私
から話をしたところでした)。

 根本教授は、学校や公営住宅などの「公共施設」と、道路、橋、
上下水道などの「インフラ」とを区分し、「シティ・マネジメント
(自治体経営)」の観点からその解決策を紹介されました。
 まず、老朽化した公共施設の更新に当たっては、それぞれを建て
替えるという発想ではなく、比較的大きなコミュニティー施設を建
設し、学校や保育所、公民館、図書館などをテナントとして入れる。
これにより、各施設に必要な駐車場やトイレ、階段などを共用でき、
施設面積を20%削減できる。
 また、集会所や公営住宅については、民間でも同じようなストッ
クを十分持ち合わせているので、更新したり新設するのではなく、
民間施設の活用に切り替えていく。例えば、稼働率が全国平均で約
20%といわれる集会所は、民間の学習塾を空き時間に借りて、使
用料を支払う。また、公営住宅事業はやめ、利用対象者に家賃を補
助して民間アパートに住んでもらう。これにより、民間に仕事を回
すことができ、新たな雇用が生まれる。前々回のかじとり通信でも、
こうした民間活力の導入による地域経済・社会への好影響について
述べさせていただきました。共通することは、とにかく民間ストッ
クを利用し、自治体は独自の資産を持たないということです。海外
では民間施設に公共施設がテナントとして入ることは常識のようで
す。

 しかし、それよりも深刻なのがインフラの維持・更新費用です。
その解決策として根本教授は、「インフラ包括マネジメント」を紹
介されました。これは個々のインフラをそれぞれ管理するのではな
く、包括的に管理せよというものです。例えば、道路や橋の維持管
理業務を細かく分けて民間事業者に委託するのではなく、道路と橋
を一括管理するような広い範囲で管理を委託する。これにより事業
者はトータルでコスト削減を考えるようになる。さらには、道路に
穴があいてから補修するのではなく、穴があく前に対応するという
発想になり、いわゆる対症療法から予防療法に変わるというのです。
包括的に管理することで、知恵がいっぱい出てくると話されました。

 また、将来の更新費用を算出する独自の計算ソフトを紹介され、
まずは時系列的に費用がどれだけ掛かるのかを分析することが必要
だと話されていました。これはまさに、かじとり通信でも申し上げ
てきた「行政にも減価償却の手法を取り入れるべきだ」という私の
考えに共通するものです。長野市としても、少し前から財政部長な
どと具体的に研究を始めたばかりでしたので、この話も興味深くお
聴きしました。
  
 さて、全国市長会議には、長野県内19市の市長も出席しました
ので、この機会を利用して、長野県市長会も開催されました。この
中で今、社会問題になっているAIJ投資顧問に資産運用を委託し
ている県内厚生年金加入企業への支援についての話がありました。
この件は、各基金の私的な問題なので、行政による支援はなかなか
難しいとは思います。ただ、長野県内にある10基金のうち8基金
が被害に遭い、いまだ解決策が見えていないということです。この
ままでは、多くの中小企業が打撃を受けますし、地域経済に深刻な
影響を及ぼす問題に発展する可能性があります。県市長会としても
問題意識を共有しながら最善の対応を考える必要があるとの結論に
達しました(19日の新聞報道によると、国も赤字の厚生年金基金
が解散しやすいよう、国に返済しなければならない積立金を減額す
る方針を打ち出しました)。

 今回の東京出張の際に、ぜひお会いしたい方がいました。川中島
地区ご出身で株式会社商船三井常務執行役員の横田健二さんです。
樋口副市長の高校の同級生ということで、このたび、ふるさとNA
GANO応援団への新規加入をお願いするために伺ったわけですが、
ご快諾を頂きました。これまでの豊かな経験や広い人脈などにより、
市政全般にご協力いただくようお願いしました。
 
 以上、東京出張の2日間について報告させていただきました。
 最近感じることは、情報化が進み、インターネットなどを通じて、
国内はもとより世界各地からさまざまな情報をリアルタイムで入手
できる時代に、全国からわざわざ市長が集まるこうした会議は、も
っと踏み込んだ議論の場となるべきだということです。しかし、そ
うした議論も、他市の政策や決定にまでは踏み込むことはできませ
んし、してはいけないことだと思っています。地方自治体は全て平
等で、お互い干渉することができない不可侵の約束事があるのです。
こうしたジレンマは感じますが、せっかく全国から市長が集まって
いるのです。お互いの立場を尊重しつつ、共通する課題の解決に向
けたより実のある会議にするために、その内容や手法を再考する必
要があると感じています。