「善光寺表参道に灯籠を復元建立する会(会長・加藤久雄長野商
工会議所会頭)」が48基の灯籠を建立され、5月24日に長野市
への引き渡し式が開催されました。長野駅から善光寺までの中央通
り(善光寺表参道)に、また一つ名物が生まれました。
善光寺表参道には、戦後まで木製灯籠(春日灯籠)があったので
すが、中央通りにアーケードができた時に、取り払われてしまいま
した。しかし、時代の流れとともに、まちの構造も変わるものです。
アーケードが造られた当時は、雨や雪にぬれないで買い物ができる
方が良いと考えられていたのでしょうが、その後アーケードが老朽
化したこともあって、アーケードがない方がまちの景観が良いとい
うことになったのでしょう、また、市民の皆さんの考えが変わって
きたこともあるのでしょう・・・、その後アーケードは撤去されま
した。そして今は、車道幅を狭めることにより歩道幅を広げ、歩行
者を優先する道路工事(舗装も石畳化しています)を行っています。
まちの在り方も、大きな時代の流れに乗っているのだなあと思いま
す。
その後、善光寺表参道ににぎわいを創出しようと、まちの皆さん
やボランティアの皆さんなどが、いろいろなイベントに取り組んで
こられました。善光寺花回廊、長野びんずる、長野灯明まつりなど
の大きな恒例行事の他、さまざまな行事が企画され、トイーゴやも
んぜんぷら座、セントラル・スクゥエア、ぱてぃお大門蔵楽庭など、
街並みも徐々に整備されてきているように思います。長野オリンピ
ックの時の表彰式会場のすごい人波は、忘れられない思い出です。
こうした中、「善光寺まで歩いて参詣してほしい」「中央通りを
少しでもにぎやかにしよう」・・・。そんな思いが多くの皆さんの
共感を呼び、善光寺も協力して、表参道に灯籠を建てようという事
業がスタートしました。
1口1万円の寄付を募り、約5,600人の皆さんから約
6,000万円の資金が集まったそうです。2008(平成20)
年8月に、1基目の灯籠が長野駅前に建立されて以来、徐々に資金
を増やしながら、この春48基目の灯籠が完成しました。寄付にご
協力いただいた皆さん、地元の皆さん、善光寺の皆さん、本当にあ
りがとうございました。
なぜ48基かというと、善光寺のご本尊である阿弥陀(あみだ)
如来様が、私たちを救うために、48の誓願を立てられたことに由
来しているとのことで、灯籠一つ一つに誓願が刻み込まれています。
また、灯籠の火袋には、長野灯明まつりで入選した切り絵が飾られ
ていて、毎年入れ替えるそうです。灯籠に灯明まつりのエッセンス
を取り入れるところは、なかなか粋なアイデアだと思いました。
灯籠の屋根部分にはソーラーパネルが取り付けられていて、夜は
LED(発光ダイオード)電球で明かりをともしますので、環境に
も配慮されています。今後の維持管理は長野市が行いますが、経費
は、ソーラーパネルの修繕費やLED電球の交換費用などわずかと
のことです。
もう一つ、街角の話題、市街地の新たな魅力を紹介します。
長野市は、文化芸術活動による潤いのあるまちづくりを推進して
います。故夏目忠雄元市長の発案で市内全域を彫刻美術館になぞら
えた「野外彫刻ながのミュージアム構想」により、1973(昭和
48)年から毎年、長野市野外彫刻賞受賞作品を市内各地に設置し
ています。その数は2011(平成23)年度末で141点となり
ました。
皆さんもご存じのとおり、市内には長野市が設置した野外彫刻以
外にも企業や個人の皆さんが設置したたくさんの作品があり、そう
したものも合わせると230点は超えると思います。
今回の長野市野外彫刻賞受賞作家である村中保彦さんの作品は、
「工事現場」という作品です。「カバ」と「ゾウ」と「キリン」に
それぞれ工事現場の「足場」が掛かっているとてもユニークな作品
で、3体がワンセットとなっています。長野駅善光寺口から北へ約
100メートル進んだ長野大通り東側の歩道の植樹帯に設置されて
おり、このちょっと変わった野外彫刻に既にお気付きの方もいらっ
しゃるかと思います。
村中さんは学生時代、工芸を専攻されていたとのことですが、今
から15年前に、山口県宇部市で開催された現代彫刻展で見た野外
彫刻に感動され、それが転機となり、野外彫刻の道に進まれたそう
です。「野外彫刻のスケールの大きさに、心の底を打ち抜かれた」
と村中さんはおっしゃっていました。宇部市の野外彫刻と言えば、
昨年同市で開催された「彫刻のあるまちづくりサミット」に出席し、
その素晴らしさについては、かじとり通信でも皆さんに報告させて
いただきました。
村中さんの作品は、ステンレスを素材としています。試行錯誤し
ていろいろな作品に取り組まれましたが、ご本人自身「工芸家が作
った屋外に設置されただけの彫刻」と感じていて、「何かが違う」
と後ろめたさ、劣等感があったそうです。また、今回の作品を制作
する前に長野市の野外彫刻を1日かけて見て回られた時、そのほと
んどが日本の彫刻史を飾る有名な彫刻家の作品ばかりだと知って、
かなりのプレッシャーを感じられたとのことでした。
村中さんは、動物の中でなぜ「カバ」を選ばれたのかとの質問に、
「好きな動物は、カバ。有機的なカバに、無機的な工事現場の足場
を掛けてみた」とのことでした。そして、カバ、ゾウ、キリンが乗
っている板のようなものは「雲」で、雲の上に「桃源郷」をつくり
たいという「自分の夢」を表現した作品になったそうです。自分の
好きな形を組み合わせたら、楽しく、そして自分の気持ちに素直に
作ることができたとおっしゃっていました。
ちなみに村中さんは、サイも好きで、本当はカバとゾウとサイの
作品を作りたかったそうですが、3体が同じような形にならないよ
うにバランスを考え、キリンに決めたそうです。設置場所が歩道と
いうこともあり、作品の高さは鑑賞のしやすさや小さな子どもや多
くの通行人の安全性も考慮して、高すぎず、低すぎないようにする
ことに気を配ったそうです。動物は子どもたちに人気のあるモチー
フでもありますので、ぜひたくさんの子どもたちに見てほしいと思
います。
野外彫刻のいいところは、絵画などとは違って、じかに手で触れ
られることだと思います。すべすべ感やざらざら感、ごつごつ感な
どを、見るだけでなく触って感じてみてください。作品に込められ
た作者の思いを感じることができるかもしれません。
実は今回、村中さんの作品がもう一つ、「工事現場」の隣に設置
されました。椅子に8羽のハトが止まったり、飛んだりしている作
品で、作品名は「希望」です。こちらは、長野ライオンズクラブの
皆さんが、クラブ結成50周年記念事業として村中さんに制作を依
頼し、完成後長野市に寄付していただいたものです。村中さんは、
制作に当たって同クラブから、東日本大震災、長野県北部の地震災
害からの復興の祈りと、社会の平和、人々の心の安らぎへの思いが
込められた作品をと依頼され、その時すぐに「ハト」をイメージさ
れたそうです。この場をお借りして、長野ライオンズクラブの皆さ
んにお礼を申し上げます。
歴史を積み重ね、長野市が日本有数の野外彫刻都市となったこと
を大変誇りに思っています。本年度の優先施策に「文化芸術活動へ
の支援と文化の創造」を位置付け、積極的に取り組んでいるわけで
すが、今後は、長野駅から文化芸術の拠点となる新市民会館までの
プロムナードになる長野大通り沿いに野外彫刻の設置を進め、身近
に作品を鑑賞しながら散策も楽しめるコース作りも目指したいと考
えています。そして、この貴重な財産を、一人でも多くの皆さんに
鑑賞していただけるよう、今年も野外彫刻めぐり事業を6回開催す
るほか、子どもたちに鑑賞の機会を提供する「キッズツアーズ」事
業を行うなど、さらにソフト面の工夫と充実を目指していきたいと
思います。
今回紹介した、灯籠や野外彫刻は、まちに彩りを添えてくれます。
善光寺表参道、そして長野大通りを歩く時は、ちょっと足を止めて、
ぜひご覧ください。