長野市が本年度から始めた副市長プロジェクトは、6つあります。
それは次のとおりです。
①新幹線金沢延伸・中心市街地活性化対策
②南長野運動公園サッカースタジアム整備検討
③公共交通利便性向上
④冬季オリンピック友好都市交流検討
⑤市役所第一庁舎・新市民会館建設および運営体制調整
⑥中山間地域活性化推進
これらは、①~④を私が、⑤と⑥を樋口副市長がそれぞれリーダー
を務め、部局横断的に問題解決を図ろうとするものです。
副市長プロジェクトを立ち上げてから間もなく1年を迎えます。
職員の皆さんの協力と努力のおかげで、スピード感をもって仕事を
進めることができています。そのため、プロジェクトによっては在
り方を柔軟に変えていく必要があると感じています。一定の方向性
が定まったものは、副市長プロジェクトという形を採らなくとも、
基本は組織に戻し、調整しながら事業を進めることができるものも
あろうと思います。
行政の仕事は分業制です。1つは国と都道府県、市町村の垂直分
業。もう1つは組織内、つまり市役所の中での部とか課といった水
平分業です。これは、過去何十年にもわたって日本に定着してきた
基本的な仕組みで、それが今、制度疲労を起こし、さまざまな弊害
を生じてきています。
現在の組織としての水平分業の中で、つくってはいけないものが
3つあると考えています。1つ目は無駄であるという点で「重複」。
いわゆる二重行政です。2つ目として「壁」。壁は連携を妨げます。
3つ目は「隙間」です。“It’s my job.”は意欲的で必要なこと
ですが、これが行き過ぎると「重複」ができます。逆に、
“It’s not my job.”だと「隙間」ができます。この加減が難し
いのです。隙間があれば、市民からの問い合わせに誰も答えられま
せん。それに、昨今の課題として生ずる問題は、この組織の隙間か
ら生ずるものが多いのも事実です。残念ながら、これは、国の省庁
でも、県の組織でもどこでも生じている問題です。垂直分業の、国
と県の間、県と市の間にもあります。
これらの「重複」「壁」「隙間」など、つくってはいけないもの
があることで、一番不幸になってしまうのは市民です。市民の皆さ
んから見てどうなのか、という目線で常に考えることが大切だと感
じています。冒頭に述べたプロジェクトは、こういった面での手立
てとして、長野市はもとより、他の団体においても採られている手
法でしょう。
昨年末に執行された東京都知事選挙で当選を果たされた猪瀬直樹
氏と、昨年、ある研修の講師として長野市にお越しになった際にお
会いし、その時に猪瀬氏の著書「決断する力」を頂きました。その
中で、当時副都知事であった猪瀬氏は「僕はプロジェクトリーダー
としてラインを横断してメンバーを集め、その人たちを使って問題
解決をはかっていく」「縦割りの組織に楔(くさび)を入れる。も
ともと縦割りの組織には司々(つかさつかさ)の専門性があるから、
その専門性を持ち寄って、新しいクリエイティブな空間をつくり出
す」と言っています。さぞかし、氏も東京都という組織の中で、ご
苦労されたことと思います。
ところで、昨今、新人の知事、市長などの首長さんにとっては、
基本的な政策提示よりも話しやすく、話題性もあるという理由から、
みの話はあくまでも手段の問題にすぎず、その目的とするのは、そ
ういう仕組みを通じて、その首長さんがどんな社会を築き、住民を
幸せにするか、なのではないでしょうか。
最近、○○都構想とか、道州制とか、大きく打ち出して有名に
なった首長さんが何人かいますが、さて、それに呼応して住民は幸
せになったかと問えばどうでしょうか。打ち出すことで失業率は
減ったのか、犯罪は減ったのか。首長の仕事は、住民が世間から注
目を浴びることではなく、住民を幸せにすることです。こういうふ
うに住民を幸せにしたい、社会を築きたい、だからそのために、国、
都道府県、市町村など、役所の内部組織をこういうふうに変えたい、
そういう議論の順番が必要です。仕組みという「手段」が「目的」
化してしまってはいないでしょうか。最近の教育委員会不要論も、
また、同じ道をたどってはいないでしょうか。地方分権や道州制な
どは、これも国家を治める手段なのですから、その是非や組み合わ
せを論ずる前に、あるべき国家像とそのための国と地方の役割分担
を、まず明確にすべきでしょう。