2013年10月10日木曜日

行政における真の手法

 鷲澤市長は、9月11日、今期限りをもって引退されることを表
明されました。私は、一昨年まで長野県庁で働いており、県職員時
代から鷲澤市長とはたびたびお会いさせていただいておりました。
 ちょうど田中康夫元知事時代の平成13年11月に鷲澤市政は誕
生したのですが、その頃私は、総務部財政課、廃棄物監視指導室、
そして1年間の民間研修、南信の福祉施設勤務をしていたので、ほ
とんど市長とは接点がありませんでした。
 やがて村井仁前知事の時代に変わり、財政課長の時に初めて鷲澤
市長とサシでお話をさせていただきました。当時、当初予算編成の
中で、市町村向けの要求が膨らみ、他の財源を振り向けざるを得な
い状況でした。そこで当時県の市長会会長を務めておられた鷲澤長
野市長を訪ね、膨らんだ市町村向けの要求と、財源対策として考え
られる既存事業の主なものを示し、「どれを切ったら良いか、ご意
見を聞かせてください」と一人で直談判しました。すると市長は、
示した資料をご覧になり、たった一言「元気づくり支援金だけは市
町村のシンボルだから削るのはやめてくれ」とおっしゃいました。
実は、事業費10億円、オール一般財源の元気づくり支援金は、財
政課にとっては今まで切りたくても切れなかった事業だったのです。
結局は、別の手法で財源手当てはしたのですが、当時の判断の早さ
と感度の良さ(失礼!)には感心したものです。帰り際、市長は私
に「県の財政課長で直接来てくれて私の話を聞いてくれたのは、あ
んただけだよ」と言われたのを今でも覚えています。
 その後、商工労働部長を2年間務めましたが、おかげで経済団体
との会合などで、たびたび席をご一緒させていただきました。ちょ
っと失礼かもしれませんが、市長と私の共通項は「酒とタバコ」で
す。懇親会などでは、たびたび市長が私の席の隣に来られ、「やー、
タバコを吸うあんたが居るんで助かるよ」とおっしゃり、しばらく
談笑して、再び酒、タバコ。
 商工労働部長のあとで就いた企画部長の時に、ある人を介して長
野市の副市長へと誘われたのは、きっと経験とか能力ではなく、「
酒」と「タバコ」が理由だったのではないかと今、気付き始めまし
た。
 その長野市に来ていまだ一年半、市政全てを理解した訳ではない
ので、こんなことを言うのはちょっとおこがましいのですが、まず
感じたのは、他の多くの市町村や長野県に比べて、財政状況が良い
なということ。例えば、職員の退職手当の財源。退職手当のための
基金、つまり貯金なんて夢のまた夢かと思っていました。退職手当
債という借金を充てるのが当たり前と思っていたのに、長野市には
基金がありました(もっとも、市長は正直なので、「実は借金で払
う方法があるなんて途中まで知らなかったんだ」と私に白状してく
れましたが・・・これは秘密です)。鷲澤市長の一番の功績は、オ
リンピック開催で苦しくなった市財政を立て直したことだと確信し
ています。それ故、市長は何遍も新たな事業に「少し金を使わせろ」
とおっしゃいましたが、私はにべもなく「ダメです」とその都度お
断りをしました。今となっては若干後悔しています。
 また、大規模プロジェクトがめじろ押しでしたが、そのような施
設建設についても考えさせられました。県庁時代、県庁屋上の喫煙
場所で、ある元市長さんと話をしたことがあります。元市長さんい
わく、「俺は市の文化施設を造るに当たって、1、2年かけて、み
っちり市民と話し合いをした。その結果、できた施設に対し批判や
不満は出てこなかった」と。住民意見を聴くという手順を、どの段
階でどの程度とるか、いわゆる行政を進める上での手順、手続きの
問題です。手続きなんかどうでもいいと言う方もいますが、私は手
続きは、ある意味行政の命だと考えています。例えば、施設(ハコ
モノ)造りにおいても住民の意見を聴くことは欠かせませんが、そ
のパターンとして2通りあるのではないでしょうか。(1)元市長
のように、先にみっちり住民意見を聴いて基本構想など、次のステ
ップへ進むやり方。これは市民の満足度は上がるでしょうが、スピ
ード感に欠けます。次に、(2)まず行政から基本を示し、後に住
民意見を聴くやり方。これは、人によっては行政の押し付けだとと
らえる人も出てくるでしょう。一方で、スケジュール感を持って仕
事が進みます。
 どちらが良いかは一概には言えませんが、長野市の大型プロジェ
クトの中には(2)のパターンが多いと感じました。それは、おそ
らく、「期限」という大きな課題があって、スケジュール感を持っ
て事業を進める必要があったからだと考えています。例えば、新市
役所第一庁舎・新長野市民会館建設はその主要財源である合併特例
債の発行「期限」、南長野運動公園総合球技場整備はAC長野パル
セイロのJ2昇格の早期実現という「期限」、長野駅善光寺口駅前
広場整備や中央通り歩行者優先道路化は平成27年の新幹線延伸、
善光寺御開帳という「期限」がそれぞれあります(その上で、事業
の必要性はもちろんのこと、中身を市民や議会に示し、意見を十分
お聴きして反映しているのは当然です)。
 こういった背景を考えると、今般の大型施設整備についてその手
法を鷲澤市政の「姿勢」という人もいますが、むしろさまざまな状
況や条件を勘案した鷲澤市政の「事情」と言った方が良いかもしれ
ません。
 長野市政のかじとりは、決して簡単なことではなかったと思いま
す。やはり、鷲澤市長であったからこそ、厳しい財政状況でスター
トしたにもかかわらず、これまで12年間にわたって長野市がここ
まで発展することができましたし、また「エポックイヤー」として
の平成27年、そしてそれ以後への道筋ができたことは、紛れもな
い事実です。
 鷲澤市長には、3期12年にわたり市長職をお務めいただき、本
当にお疲れさまでしたと申し上げたいと思います。私は1年7カ月
という短い間ですが、さまざまなご指導をいただきました。誠にあ
りがとうございました。土日を問わずの公務スケジュールが、さぞ
かし激務であったことは想像に難くありません。今後は、趣味のス
キーなどを存分に楽しんでいただきながら、奥様をいたわり、さら
なる発展を遂げるべく長野市政への温かいご指導をよろしくお願い
いたします。