2002年6月10日月曜日

長野県治水・利水ダム等検討委員会の答申について


 去る6月7日に長野県治水・利水ダム等検討委員会の最終委員会
が開催され、宮地委員長から田中県知事に対し答申が為されました。
すなわち、「これまでの委員会審議の概要及びこれについて委員か
ら寄せられた意見を総合して、その多数を優先し、委員会は浅川の
総合的治水・利水対策として、B案すなわちダムによらない河川改
修単独案及びそれに対応する利水案を答申する。なお、A案を支持
する意見もかなりあったことを付記する」というものです。

 長野市長である私は、この委員会の下部組織である浅川部会の委
員として約5ヶ月、議論に参加させていただきましたが、この答申
については極めて遺憾であり、市民の生命と財産を守る地元行政責
任者の一人として、言いようもない怒りを感じるものであります。
以下、理由を広く皆様に知っていただきたい、委員会の内情を知っ
ていただきたいと思い、敢えてメルマガ号外を配信させていただき
ます。

 一点目としまして、まずこの文中にある「多数を優先し」という
部分です。委員会の構成メンバーは、最初からダム反対論者が多い
と分かっていたことではあります。従って少なくとも委員長は、多
数決の議論はとらないはずであると信じていました。これについて
は見事に予想に反してしまったと申し上げる以外に言葉がありませ
ん。私は大学教授という方はもう少し民主主義の原点を知っていら
っしゃる方と思っていました。田中知事が「脱ダム宣言」を発し、
県議会が反発してこの委員会の設置を決め発足したとき、私はある
県議会議員さんに「なぜこの委員構成なのですか?」と質問しまし
た。議員さんいわく、「委員会の設置は議会で提案できるが、残念
ながら委員の任命は知事の専決事項なんだ」とのことでした。私が
地方自治法の規定を知らなかった故の疑問でしたが、しかしこうい
う答申が出てくる、しかも結果として多数決で決したとおっしゃる
わけですから、ダム推進派の県議会議員さん方のご努力には敬意を
表しますが(すなわち委員会を設置すれば公平に委員は選ばれ、民
主的な議論が行われるという考え)、その委員会が設置された時点
から否定されたと考えざるを得ないということでしょう。もし私が
委員長の立場であり、B案をとるなら、A案の問題点を納得のいく
ように全て指摘した上で学問的良心にかけてB案だと言う。公平中
立な立場を求められる委員長としてそれが言えないなら、両論併記
しかないと私は思います。

 二点目として、部会の討議を通して言えることですが、部会の委
員は自分の意見を述べ合っているだけで、相手の意見を聞いて自分
の意見を変更するということは、まずありませんでした。19名の
内、公募委員のお一人だけが、部会での審議を通じ賛成派の意見に
近づいていただけたかな、という感じはありましたが、学者的な方
々やダム反対に凝り固まっている方々の意見は終始一貫同じでした
(推進派の私達もその意味では同様です)。要するに「これは何か
を話し合って決める委員会ではなく、討論会、意見の述べ合いの会」
と申し上げて間違いないでしょう。この種の委員会の本来の姿は、
もっと公平で権威のある専門家の方々で構成され、そこで今回の委
員の意見等を十分聴取されて、判断を下すというのが民主的な手法
ではないでしょうか。アメリカの裁判が陪審員制をとっている意味
が良くわかりました。

 ダム反対派の意見は、ある一つの組織の意見で統一されていまし
た。実に良く勉強されていましたし、公聴会での口述人を含めてお
っしゃることは全て同じ出所の意見と私には聞こえ、良く理論武装
されて喋っておられました。それに比べ、ダム推進派の意見は多種
多様で、それほど理論だっているわけではなく、長年水害に悩まさ
れてきた方々の生活実感のこもった意見が多かった。ですから、い
わゆる学者さんに対抗して議論するにはどうしても気後れがして言
いたいことの半分も言えない、そんな方々が多かったと私は思いま
した。私は行政代表の立場として、そんな方々の代弁をきちんとし
なくてはならないと考え、長野市の河川課の職員と連日頑張ってき
ましたが、本来の目的を果たすことができないこの委員会では、理
屈の通らない世界が数により支配されており、誠に残念ながら力不
足でした。

 既に過去二回のメールマガジンで、私のダム推進の立場は十分述
べさせていただきましたし、その意見は委員会の答申が出た現在で
も全く変わっておりません。従って今回はダムそのものについての
意見は避けさせていただき、委員会の実態について述べさせていた
だきました。(この意見はもっと早く申し上げ、市民の皆さんに知
っていただきたかったのですが、もしかすれば答申内容が、市民の
生命と財産を守る立場にたったものになるかもしれない、という淡
い期待をもっていましたので、答申がでるまで出せませんでした。
お許し下さい)。

 最後に、住民の生命と財産を守ることは、行政にとってもっとも
基本的な責務であり、最も尊重すべきことであります。この答申を
受けて知事がどのような判断を下すのかは分かりませんが、行政の
責任者として子々孫々にわたり地域住民を守り続けるという、責任
ある判断を下すことを期待しております。