2002年10月17日木曜日

公共事業悪玉論について


 公共事業を止めるべき、あるいは減らすべきという議論が高まっ
ています。確かに日本全体に財政が悪化して余裕がなくなっている
こと、無駄な公共事業が指摘されていること、政治献金とゼネコン
のつながりが告発され、国民の嫌悪感をつくってしまったことなど
が要因にあると思います。また、少子高齢化が進む中で、国民の関
心は公共事業よりも福祉施策の充実へと変わってきており、この背
景には、自然志向というか自然を大切にしようといった、意識変化
なども要因の一つと思われます。さらに加えれば、閉塞感が深まる
中、「将来の子孫に美田を残す余裕はない、現実が大変なのだ」と
いうことかも知れません。

 こんな傾向が反映したわけでもないのですが、長野市の平成14
年度の予算は、初めて民生費が土木費を上回りました。土木費の中
には公共事業に必要な土地の購入費も含まれていますので、今年の
場合はたまたま土地購入が少なかったということもありますが、こ
の傾向は今後も続くのかなと感じていることは事実です。

 ただ、市長就任以来約11ヶ月、市内各地で「元気なまちづくり
市民会議」と題して行政懇談会を開催していますが、住民サイドの
公共事業期待論、特に道路建設の要求は大変多くあります。もちろ
ん学校のことや保育所、児童館、障害者施設、公民館などの要望も
多いのですが、地区ごとの話になるとどうしても生活道路やバス路
線といった市民の足の部分が多いように思います。

 オリンピック前の長野市は、高速交通網の遅れから、「陸の孤島」
といつも自嘲気味に嘆いていたのですが、新幹線の開通や高速道の
整備に伴い、市民の関心は変わってきています。高速交通網の整備
から生活環境の充実へと意識が変わる中で、中山間地の市民にとって、
生活道路への投資はどうしても必要であるということなのです。

 過去、オリンピックを前にして、その関連道路に力を入れざるを
得なかったことは事実ですが、オリンピック直後からは、長野市も
生活道路に力を入れています。全般的に財政が苦しく、なかなか事
業が進まないことも事実ですが、でも、こういう公共事業はどうし
ても必要なのです。

 国の議論を聞いていても、整備新幹線建設の是非や道路公団の民
営化によるプール制の廃止と不要路線の建設中止など、公共事業の
あり方が大きな焦点になっているようです。

 長野市にとってみればオリンピックを契機に高速交通網の整備は
一応出来ていますので(もちろん、高速道については上越市までの
片側2車線化、新幹線については最終的には大阪までの延伸といっ
た問題はありますが)、あまり切実感がないということも事実では
ないでしょうか。しかし、これから造ろうという地域にとっては、
まちの再生をかけた一大事業であり大問題でしょう。地域や国民の
平等感という観点からみれば、当然必要ということなのだと思いま
す。

 同じようなことですが、70歳以上の皆さんが市内のバスを100
円で利用できる「おでかけパスポート」事業は、お年寄りの活動範
囲が広がったという意味で大変評判の良い事業ですが、一番つらい
のは「せっかくパスポートをもらっても乗るべきバスが無い」と言
われることです。それを解消しようと必死に取り組んでいますが、
バス会社も採算性の問題などから、簡単にバス路線を増やせないと
いった問題があり、なかなか市民の皆さんの平等感を満たすことは
難しいものです。

 公共事業とは少し違う話ですが、公共交通機関の確保、再生は地
方都市にとって大変重要な仕事と考えています。若者が多い時代は
自家用車を運転して、病院へお年寄りを送迎したり、買い物などで
山間部から市街地へ出かけることも簡単に出来ていたわけですが、
現在のように地区によっては高齢化率が30%を大きく超えるよう
な時代になると、それがままならないわけで、お年寄りや子どもの
足をどのように確保するかが問題になってきます。これは、一種の
福祉事業かも知れませんが、市民の重要な要求の一つなのでしょう。

 このことは、環境問題の面からも考えなくてはならないことだと
思っています。道路幅を広げ、あるいは立派な道路を造ると、結局
車が増えるという「いたちごっこ」が続いているのです。環境を考
えると、自動車の排気ガスを減らす、エネルギー消費を減らすとい
うことが、今後重要な施策になってくることは事実でしょう。

 通勤時間帯、ほとんどの車は一台に一人で乗っています。バスな
ら一台に数十人が乗れるわけで、その結果、何台もの車を通勤時間
帯の道路から減らすことが可能になり、その分、ラッシュアワーの
混雑も無くなって、そこでも排気ガスを減らすことが出来る・・・。
難しい問題ではありますが、いずれ施策の柱になるのではないかな、
という予感がしています。

「環境」は人類の生き残りをかけたテーマなのですから。