2005年3月24日木曜日

平成16年度を振り返って


 早いもので本年度の私のメールマガジンは、今回も含めて残り2
回になりました。思えば平成14年4月に「長野市政のことを、自
らの語り言葉で市民の皆さんに知っていただきたい」と書き始めて
から3年が経過します。これからも「最後まできちんと自分の言葉
で書くぞ!」と自分に言い聞かせている毎日です。

 今回は本年度の集大成として、行政運営を行っていくうえで私が
悩んでいるテーマについてまとめて書かせていただきます。

 地方自治体にとって(長野市にとって、と言い換えても良いので
すが)方向性や決定打が無くて困っているテーマがいくつかありま
す。これは、解決手法や達成目的が決まっているが財政的な問題、
あるいは反対意見があって当面は解決できないというものとは違い、
行政がどのようにかかわり、具体的に何を行えばよいかということ
すら見出せないテーマのことです。

 すなわち、「全ての公約に、目標・手法・期限等を設定する」と
いうのが、最近流行のマニフェストだとすれば、マニフェスト化す
るのが難しいテーマといえるのかもしれません。その中で、特に私
が注視している問題は、

1.中山間地の活性化(農業、林業全般も含めて)。これは、日本
  中が困っているテーマです。もちろん、いろいろな施策は行わ
  れていますし、国、県、市も対症療法的には取り組んでいます
  が、決定打がない、最終目標が描けないのです。私なりには、
  定住人口が増え、産業として成り立つこと、あるいは、生活が
  成り立つことが目標と考えてはいますが、そこへの道筋は残念
  ながら分かりません。

2.少子化対策。これからの最大の問題かもしれません。長野市の
  人口動態調査をみても、少子化傾向は明らかで、30年後、長
  野がどんなまちになっているか。統計を分析しても想像がつき
  ません。先進国の中で、フランスの*合計特殊出生率がプラス
  に転じた国ということ(アメリカを除いて)なので、パリにあ
  る自治体国際化協会に出向している長野市職員にフランスの施
  策を調べてもらいましたが、かなり長い間の積み重ねとすごい
  コストが掛かっているようで、国や地方が全力を挙げて取り組
  むべき施策であり、一地方団体だけでできることではないよう
  に思います。いずれにせよ、子どもを産み育てるということは
  ハッピーなんだ、という環境と雰囲気が必要なのでしょう。

3.環境対策、地球温暖化防止策(CO2削減)。京都議定書が発
  効し、これから国としての行動計画が決まるのでしょうが、地
  方自治体のやるべきことがまだはっきりしません。しかし、地
  球環境を守るということは、人類の生き残りをかけたテーマで
  すから、最優先に取り組むべきことなのでしょう。ですが、現
  段階で国の対策が対症療法的なのでは、地方自治体として根本
  的な所まで踏み込めないでいるというのが実情です。

4.雇用と景気浮揚対策。これも一地方自治体ではかなり困難なテ
  ーマです。各種アンケート調査では「景気を良くすべき」とい
  う項目が常に上位になるのですが、地方自治体のできる範囲は
  極めて限られたことしかできないというのが実感です。昔のよ
  うに公共事業を発注して景気を刺激することが難しく、また、
  その効果も疑問視されています。行政とすれば、企業が利益を
  上げ雇用を増やし、景気が良くなって税収が上がればありがた
  いわけですし、いろいろ施策の選択の幅も広がるのですが、現
  状は市町村にとって義務的な支出が増えるばかりで、投資に回
  せる余裕がないというのが実情です。

5.市民、地域(社会)、行政の役割分担が不明確。このテーマは
  前の4つとは少し性質が違うかもしれませんが、この役割分担
  が曖昧になっていることで、無責任体制がはびこり、財政危機
  を招いていると私は思っています。あらゆる組織に言えること
  ですが、それぞれの段階での役割を明確にし、その責任を果た
  すことが重要です。

 悩みはこれだけではありません。でもこの5つは、いくら考えて
も難しすぎて、困っています。

 次に私が考えている行政改革について、私見を述べさせていただ
きます。行政改革という言葉がさまざまな場面で使われていますが、
理念として分かったような気がしても、具体論になると、曖昧にな
ってしまうことが多いようです。私の考える行政改革は次の3つで
す。

1.「分かりやすさの追求」  政策決定の仕組みや財政の仕組み、
  さらには入札制度のあり方など、まだまだ行政は分かりにくい
  のではないでしょうか。そして、「密室での政策決定で誰かが
  甘い汁を吸っているのではないか?」という批判もあります。
  もちろん情報公開を進めることは当然必要なことなのですが、
  その反面で密室での話といってもその定義が難しい。企画段階
  から情報を公開すべきと昔から言われていることなのですが、
  テーマによっては初めからオープンにできない話は沢山ありそ
  うです。私のメールマガジンは、その辺を理解していただきた
  いという意味をこめて、分かりやすさを心がけているのですが。
  とにかく「分かりやすく」が行政改革の第一のテーマでしょう。

2.「市民参画制度(パートナーシップ)の採用」  市民参画で
  大切なのは自主性・主体性のはずです。でも実際は、「利用さ
  れているだけなのでは?」とか「単なる下請けですか?」と感
  じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。政策決定に
  は、理解され、同意をいただける提案が必要となり、そのため
  には、発言力やプレゼンテーションといった「説明する力」な
  どが必要となってきます。ボランティアはこれからの社会にと
  って重要な存在ですが、でもそれだけでは食べていけない。や
  はり継続させるためには、生活に結びついていくことが必要で
  す。

  民営化とか民間委託とか、今後始まる指定管理者制度も、民間
  と行政がパートナーシップで行うという意味では、市民参画の
  一つの方法でしょう。

  市民の市政参加の手段として、審議会、委員会がありますが、
  その人選や方向性を誤ると、それは為政者の思惑に沿った政治
  運営に陥る可能性があります。それを避けるため「あり方」や
  「委員の選考方法」について考えているのですが、最良の方法
  が見つかりません。「委員全員を公募だけにしてみたら」とい
  う提案もいただいたことがありますが、公募であれば純粋な審
  議ができるのかというジレンマがあり、踏み切れないで迷って
  います。
  
3.「行政コストの削減」  狭い意味での行政改革の本命。職員
  の削減や給与や待遇の見直しも必要です(特に今後退職金問題
  が浮上してくるのではないでしょうか)。また、民間活力の導
  入では、サービス向上や競争原理の中での切磋琢磨、運営のノ
  ウハウの取得等も大切ですが、一義的にはコストが下がること
  に意義があるはずです。

  行政の最大のリストラは「市町村合併」でしょう。特別職の失
  職、時間をかけての一般職の削減、二重投資の回避、個々の市
  町村の問題点(隠れ負債)の表面化など、日本全体でのプラス
  要因は計り知れないものがありますし、地方分権の時代、その
  受け皿は市町村であるということは事実ですから、その市町村
  の力を強めることは必要です。

  しかし、市町村合併によって低下するサービスもあります。外
  縁部になって役所が遠く、声が届かない、存在感を示せないと
  いった声もあがっています。一方で今後解決していかなくては
  ならない過去の政治の問題もあります。また、旧市の外縁部と
  合併町村地域の逆格差などが多く、公平でなくてはならないと
  いう行政の立場から言うと、解決しなくてはならない問題が数
  多くあります。

 私が市長に就任したときに目標に掲げた「入りを量(はか)りて
出(い)ずるを為(な)す」という状況になっていない現状(例え
ば、過去の積立金を取り崩して予算を組んでいる現状)は、本当に
残念です。それでも私は、私の責任として「入りを量りて出ずるを
為す」の実行を進め、少なくともそこに至る方法論を確立すること
を決意しています。

 社会を取り巻く経済情勢の厳しさは言い尽くされていることです
が、政治情勢についても厳しいものがあるように思います。次の3
つは、私が日頃感じている政治を取り巻く状況についての不満です。

1.迎合主義による政治家の無責任

2.役人の事なかれ主義による問題の先送り

3.国民の白紙委任のお任せ政治

 この政治状況を打破するため、私は「分かりやすさ」を信条とし
て市政運営を行っていきたいと思います。そして、どうやって進め
るかについて、行政内部のみならず関係するさまざまな意見に耳を
傾け、真に必要な行政サービスとは何かを常に冷静に判断し、説得
責任を果たしながら、情熱を持って実行していきたいと思います。


*「合計特殊出生率」 1人の女性が再生産年齢(15歳~49歳)
を経過する間に産むと考えられる子どもの数をいいます。