2008年5月29日木曜日

教育の常識に挑戦か


 先日、長野市校長会と長野市PTA連合会の総会が行われました。
校長会では、市立の小・中学校77校および市立長野高校の校長先
生をはじめ、ろう学校など市内にある県立の特別支援学校の校長先
生にもご参加いただきました。PTA連合会の総会に出席されてい
たのは、市立の小・中学校と信州大学附属長野小・中学校、市立長
野高校のPTA会長さんや役員の皆さんです。それぞれ内容は異な
るのですが、市長としてお話しさせていただく時間をいただきまし
た。
 以下は、その時にお話しした内容をもとに加筆したものです。

 教育について議論すると、100人いれば100通りの意見があ
ると言われています。従って、考え方や方向性を一致させるのはか
なり難しいといつも感じています。
 一昨年、教育基本法が改正されました。これを受けて教育三法、
そして学習指導要領も改正されました。これらについては、改正の
過程を聞いたり、あるいは、先日、NHKテレビで放映された討論
番組を見たりもしました。私の印象としては、議論は白熱していた
のですが、これからの教育の方向性が固まったとは思えませんでし
た。

 戦後60年余り、改正前の教育基本法の下で教育は行われてきた
のですから、法が変わったからと言って、簡単に新しい形が出てく
るとは思えません。長い試行錯誤が続いて、徐々に変わっていくも
のなのではないでしょうか。

 昨年のことですが、『週刊文春』の2月1日号に学習院名誉教授
の川嶋優氏(皇太子殿下の恩師、元学習院初等科長)の講演内容に
関する記事が掲載されていました。現在の教育の盲点を突いた、と
いうより本音を語った文章で素晴らしいと感じましたので、校長会
とPTA連合会の総会で紹介させていただきました。その内容を転
載させていただきます。

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 「子どもをだいじに育てよう」

 いま教育界で流行(はや)っている三つの“怪しげな言葉”に惑
わされてはいけない。
(1)子供の“個性”を大事にしよう
(2)親の“価値観”を子供に押し付けるな
(3)初めから教えず、子供の“思考力”を尊重しよう

 三つとも格好のいい言葉ばかりですが、そんな理屈では子供は育
たないのです。

 大人だって、自分の個性がわからないのに、子供の個性を見抜く
ことなんかできません。
 価値観だって、「こういう人間になってほしい」という思いで、
親が善いことと悪いことをはっきり子供に押し付けることができな
ければ駄目。
 思考力といっても、子供の頭や心に材料がない状態で考えろ、と
言っても無理。

(さらに)

 「叱(しか)るのはいいけれど、怒っちゃいけない」なんてもっ
ともらしいことを言う人もいますが、子供を叱るときは、感情をい
っぱい見せて怒らなくてはいけない。
 小学校に入る前の段階で、子供がわがままを言った時に「なぜい
けないのか」を納得させたり、人にきちんと挨拶(あいさつ)しな
ければならない理由をわからせるのは無理です。
 理屈は後回しにして、「それはいけないこと」「挨拶はするもの」
だと教えればいい。

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 これは、この記事を読んだとき、感激したものですから、自分の
パソコンに記録しておいた文章です。文字などに多少間違いがある
かもしれませんがお許しください。この川嶋名誉教授の意見を、皆
さんはどう思いますか?

 現在の教育の流れ、あるいは表面的に言われていることと比べた
場合、「正反対だなあ!」と思われませんか。そして、誰しも心の
底ではそう感じていて、でも口に出しては言いにくい・・・そんな
感じではないでしょうか。
 心の中では、どうお感じになっていたかは分かりませんが、懇談
会の席では校長会の先生方からも、おおむね「その通り」といった
感想をお聞きしました。

 私事で恐縮ですが、もう30年ぐらい前になるでしょうか、私は
自分の3人の子どもたちに対し「自分が稼いで生活できないうちは、
親の言うことを聞け!一人前になったら自由にやってもよいが、親
掛かりのうちは駄目!」ということで通してきました。子どもたち
には不満があったかなと思いますが、絶対に譲りませんでした。こ
れが良かったのかどうか、多少不安もあったのですが、川嶋名誉教
授の講演の記事を読んで、まさに「わが意を得たり!」の気分でし
た。

 「三つの“怪しげな言葉”」というのは、考え方としては3つと
も正論に聞こえますから、なかなか反論しにくいのですが、権威の
ある方に言っていただくと、みんなホッとするのではないでしょう
か。

 では、具体的にはどうすればよいのかということですが、子ども
の年齢によって違うのだろうと思います。中学生ぐらいまでは、生
きていくために必要となる基礎的なことを学ぶ時期です。故に、川
嶋名誉教授のおっしゃる通り、親や先生、あるいは社会は、子ども
に対して理屈ではなく、押し付けでもいいからきちんとした基礎学
力、社会常識を教える・たたき込む、ということが必要になるので
しょう。常に一貫した考え方で子どもを指導する、ということが大
切だと思うのです。「子は親の後ろ姿を見て育つ」といいますが、
親がしっかりした姿勢を持つことが大切だと思います。

 これも本を読んでの話ですが、経済学者である専修大学名誉教授
の正村公宏氏は、「小学校と中学校の教育の最も重要な目的は、学
科試験によって選別することではなく、社会の中で生きていく能力
を身に付けさせること、むしろ、自ら社会を構成する主体となる力
を身に付けさせることである」と主張されています。
 川嶋名誉教授の論に比べて、若干抽象的ではありますが、言おう
としておられることは似ていると私は思います。

 応用教育や専門教育、あるいは自主性や自己の確立といったこと
などは、高校、大学に入ってからで十分なのかもしれません。基礎
学力、社会常識をまず鍛えよ、鉄は熱いうちに打て・・・というこ
となのでしょうか。

 少し話題がそれてしまうかもしれませんが、そうは言っても親の
立場とすれば、優秀な学校へ、そして良い就職を・・・と望むのは
無理もないわけです。ご家庭によっては、子どもが小さいうちから
塾に通わせたり、進学校といわれる学校では、授業の進行を早めて
受験に備えたりもしているのですから、川嶋名誉教授や正村名誉教
授がおっしゃるようなことだけでは、満足されないかもしれません。

 最近の新聞の囲み記事にも、大学の価値は卒業生の就職先で決ま
る、というような記事がありました。少子化により、大学全入時代
を迎え「大学冬の時代」と言われる中ですから、子どもの将来への
的確な道しるべ、そして卒業生への的確なフォロー・・・要は具体
論ということでしょうが、現代の大学にはそんなことが必要になっ
ているようです。

 私は、教育の専門家ではないので間違っているかもしれません。
しかし、教育にかかわらず、現代における社会的な現象についての
理屈や理念、あるいは耳に優しい言葉などは、おおむね分かってし
まっているのではないでしょうか。皆さん同じようなことをおっし
ゃり、誰も反対できない・・・。しかし具体論になると、なかなか
そうはいきませんし、反論も出てきます。

 川嶋名誉教授の話を聞いて、「その通り」と感嘆しても、具体的
にはどうするのか。やっぱり難しいですね。良い学校に入って、良
い就職をしたい、一般的には目標の重点はどうしてもそちらに行っ
てしまう、当然の話です。

 実はその後、『週刊文春』の記事だけでなく、川嶋名誉教授が単
行本を出しておられることが分かり、購入して読んでみました。
 『子どもは若殿、姫君か? 現代教育批判』という題名の本です。
本の帯だけご紹介しますと、「教えなさい。躾(しつけ)なさい。
怒りなさい。押し付けなさい。今の教育、学校と若者の問題の原因
は親にあります。親のそのまた親にあります。誤った育児論・教育
論にあります。」とあり、ご紹介した「子どもをだいじに育てよう」
の内容を詳しく親切に、そして分かりやすく書いてありました。
 本屋さんでの立ち読みで読めてしまいそうな、すぐに読める本で
す。価格は1,050円でした。長野市立図書館でも貸し出しをし
ていますので、ご一読をお勧めします。

 今回の話は、教育委員会の専権事項に踏み込んでしまったような
気もします。加えて、まとまりのない話になってしまいました。お
許しください。

2008年5月22日木曜日

聖火リレーについて


 4月26日、長野市で北京2008オリンピック聖火リレーが行
われました。この出発式で、私は聖火リレー開催都市の市長として
あいさつをさせていただきました。私が申し上げたことについては、
幾つかの新聞では取り上げていただきましたが、改めて以下に掲載
させていただき、これをもとにして、私なりに聖火リレーを総括し
てみたいと思います。

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「北京2008オリンピック聖火リレー/長野」出発式 市長あい
さつ

 10年前の1998年2月7日から16日間にわたって、平和と
友好のシンボルである「聖火」が燃えさかり、「愛と参加の長野オ
リンピック」が開催された、ここ「長野」の地に、再び「聖火」を
迎えることができ、感慨深いものがあります。
 長野オリンピックでは「平和と友好の祭典」を基本理念に据えて、
ピースアピール活動を展開し、呼び掛けに応える大きな輪が全世界
に広がりました。
 平和の実現は、世界のすべての人々の切なる願いであり、スポー
ツを通じて相互理解と友好の精神を養い、平和でより良い世界の建
設に貢献するという、オリンピック精神そのものであります。

 北京2008オリンピック聖火リレー/長野の出発に当たり、こ
こ「長野」から、再び全世界に向け、「世界平和と国際友好」の願
いを込め、国連総会において採択された「世界人権宣言」の第一条
を朗読し、多くの人々により引き継がれてきた「聖火」を、次のリ
レー地、韓国・ソウルにつないでいきます。

(世界人権宣言 第1条)
 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権
利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、
互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

All human beings are born free and equal in dignity and
rights.They are endowed with reason and conscience and
should act towards one another in a spirit of brotherhood.

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 今回の聖火リレーには、国際的にも難しい微妙な問題が含まれて
いたため、あいさつを考えるに当たっては、かなり頭を悩ましまし
た。
 この聖火リレーは、JOC(財団法人日本オリンピック委員会)
から推薦をいただいたことにより、日本国内唯一のルート地として、
長野市で実施することになったのです。長野市とすれば、10年前
に冬季オリンピックを開催した都市として、聖火を無事につなぐこ
とが責務だと考え、お引き受けすることにしました。
 しかし、チベット問題を含む中国国内の人権問題については、日
本国内でも批判的な意見が多くなり、矛先が聖火リレーに向けられ
るようになったのです。長野市として、人権問題に対する何らかの
姿勢を示すべきであるとのご意見もいただく中で、どのような意思
表明が可能か・・・。出発式には、北京オリンピック組織委員会の
代表や中国大使も出席することになっていました。
 このあいさつは、そんな微妙な立場を考えた末、教育委員会と議
論をする中から出来上がったものです。中国も日本も認めている国
連の「世界人権宣言」を引用することにより、何とか長野市として
意思表示をすることができたかなと思っています。

 開催間際の段階になり、善光寺さんが自らの意思として、聖火リ
レーの出発地を辞退されました。これはこれで良かったと思ってい
ます。長野オリンピックが善光寺さんの鐘の音から始まったことに
かんがみて、もちろん長野市とすれば、聖火リレーをお引き受けし
た時点から、善光寺さんを出発地とすることを考えていたことは事
実ですし、長野市民の皆さんも当然そうだと感じていたと思います。

 ただ、チベット問題に対する中国政府の対応が、海外で大きく取
り上げられ始めたのは、想定外の事態でした。長野市に対してだけ
でなく、善光寺さんへも、チベット問題に関連して、いろいろなメ
ール、ファクス、あるいは抗議活動などがあり、善光寺さんとすれ
ば、参拝客や大切な国宝を守る立場からも、辞退せざるを得なかっ
たのだと思います。

 報道により知ったことを含め、聖火リレーに関する私の総括は、
次の4点にまとめられます。

(1)長野市での聖火リレーは、全行程にわたって、大きな事故・
  混乱はなく、粛々と行われたと考えています。・・・数人のけ
  が人、逮捕者が出たりしたことは残念でしたが、少なくとも長
  野市民は冷静だったと思っています。

(2)オリンピック開催都市として、国際的な責任を果たしたいと
  いうことはもちろん、聖火を大切に思う長野市民の気持ちは、
  十分とは言えないまでも表明できたと思っています。・・・残
  念ながら、10年前のような温かい、そして楽しい雰囲気から
  は遠かったのですが、沿道には中国の方に混じって市民の姿も
  多く見られ、声援を送っていただきました。

(3)日本(長野)は“人権”“表現の自由”を大切に考えている
  ということを、世界に発信することができ、誇りに思っていま
  す。・・・事前活動を含め、チベット関連団体、中国政府の姿
  勢や北京オリンピック開催に反対する団体・・・他の団体と同
  様に、これらの方々の意見表明も一切規制してはいけないと考
  え、多少の行き違いはありましたが、活動場所を借りたいとい
  う申し込みなどについては、条例に反しない限り、市では許可
  しました。長野県や長野県警でも許可したようですから、実際
  にチベットの自由を主張する団体などの集会やデモ行進も行わ
  れていました。言論の自由の擁護を目的とした非政府組織であ
  る「国境なき記者団」も特に問題無しと評価。その意味では、
  善光寺さんが自らの意思で出発地を辞退したことも、結果とし
  て良かったと思っています。

(4)今回の聖火リレーは、政府、JOC、長野県、長野県警、長
  野市の連携なくしてはできませんでした。そして、何よりも、
  応援していただいた市民やボランティアの皆さん、80人のラ
  ンナーの皆さんの参加があってこそ実施できたのです。これら
  すべての方々に、心から感謝申し上げます。

 聖火リレーが終わり、その翌日、会う人皆さんから、「良かった
ですね」「ご苦労さまでした」と、ニコニコ顔でのあいさつをいた
だきました。私の女房が買い物に行った際にも、みんなに「無事に
終わって良かった!良かった!」と言われたそうです。「私は直接
関わっていないのに・・・」、なんて言いながら喜んでいました。

 中国の結束力、パワーはすごいですね。あの日、街中が赤い中国
の国旗で埋まってしまったような錯覚を覚えました。でも、あのよ
うにたくさんの旗を見て、抵抗を感じた方も多かったのではないで
しょうか。中国の国旗に混じって、日本の国旗、五輪旗がもっと多
くみんなの目に映ったら良かったのに・・・と思いました。

 聖火リレーが終わってから、どこの放送局か忘れてしまいました
が、テレビ番組でこの問題の討論会のようなことが行われていまし
た。日本人の発言も含めて圧倒的にチベットに同情的な論調が多か
ったようです。その中で、中国人の女性が、「自分は中国の少数民
族、でも差別など受けていない、中国はすべての少数民族を同じよ
うに扱っている」と強調しておられました。
 きちんと聞いていたわけではありませんから、正確ではないかも
しれませんが、これを聞いて私は、「中国としてはこの女性の言う
通りなのだろう。でも、地方分権(自治)が行われていないのでは
ないか。あの大きな国を一律に統治しようとすることが、無理なの
だろうな。中国にもう少し余裕ができて、真の意味での地方自治の
時代になれば、素晴らしい」と思いました。

 もう、30年以上も前のことになりますが、ある新聞の論壇の中
で、「日本では、自分の国を否定する言論にも市民権が与えられて
いる」と書かれていたことを、今、鮮明に思い出しています。今回
の聖火リレーを通じて、「言論の自由」の大切さを、改めて感じる
ことになりました。

 5月12日に、中国・四川省で大規模な地震が発生しました。報
道によれば、被災者は1,000万人にも達するとのことで、想像
を絶するけた違いの被害が出ています。不幸にも、この災害に巻き
込まれた数多くの犠牲者の方々のご冥福をお祈りいたします。
 中国国内で行われていた聖火リレーは、地震の発生後、犠牲者へ
の黙とうをささげてからスタートするという形で継続されてきたそ
うですが、19日から3日間、一時中断したとのことです。このよ
うな未曾有の大惨事が起きているのですから、妥当な措置だと思い
ます。
 日本からも、国際緊急援助隊が被災地入りして救助活動に当たっ
たとのことですが、今後も、人命救助や被災者支援、そして復興に
向けての支援が必要だと考えています。

2008年5月15日木曜日

政局の混乱・自治体の願い


 5月13日に政府・与党は、本年度から10年間、ガソリン税収
などを道路整備に充てると定めた「道路整備費財源特例法改正案」
を衆議院で再可決し、成立させました。あわせて同日、福田首相の
公約(?)に基づいて道路特定財源は平成20年度限りとし、来年
度から一般財源化するという閣議決定がありました。10年間と言
いながら本年度のみというのは、いかにも泥縄式で整合性がとれて
いませんが・・・ただし、閣議決定した内容には、必要な道路はつ
くるとの一文も入っています。
 まあ、一般財源化が時代の流れなので仕方ないが、予算審議の段
階で、一般財源化された枠の中から道路財源を確保すればよい、と
いうことでしょうか。

 これにより、昨年から波紋を広げてきたこの問題も、ようやく当
面の決着がつき、今年度の問題とすれば、4月に失ってしまった
12分の1の財源をどうするか、ということでしょう。でも、まだ
さまざまな課題が残っていると思っていますので、もう一度、私が
感じてきたことについて書かせていただきます。

「昨年の参議院議員選挙後のねじれ」
 昨年の参議院議員選挙の結果、衆議院では与党が議席の3分の2
を占める一方で、参議院では野党が過半数の議席を獲得するという、
いわゆる「ねじれ現象」が発生しました。これにより、その後の政
局が混乱するということは、誰もが予測できたことだと思います。

 まず、国会運営の難しさが如実に表れたのは、「自衛隊のインド
洋での給油問題」です。結果、「テロ対策特別措置法」が昨年11
月の期限切れにより失効するということになり、これまでにない混
乱となりました。故に、その後、自民党と民主党が連立するという
「大連立構想」が模索されたりもしていましたが・・・。そういえ
ば、国会人事の日銀総裁問題もかなり紛糾しました。給油問題は、
期限切れにより自衛隊が一時帰還。その後、国会の60日ルールに
より再議決したことで元に戻り、日銀総裁は、野党も受け入れ可能
な人事に差し替えられたことでようやく落ち着きました。
 個人的には、「ねじれ」が真の意味での話し合いによる政治が行
われる原点になると期待もしていたのですが・・・。残念ながら今
のところ、そうはなっていません。

「道路特定財源と暫定税率問題」
 国の「道路特定財源」は、もともと道路を迅速に整備する財源を
確保するためにつくられた仕組みです。この財源には、道路整備は
自動車利用者が負担するという考えに基づいて、ガソリンに対する
揮発油税のほか、軽油引取税、自動車重量税などが充当されていま
す。本来の揮発油税は、ガソリン1リットル当たり24.3円です
が、昭和49年から暫定税率としてその2倍にあたる48.6円が
課税されています。

 以来、暫定税率による課税は、時限立法でありながら30年以上
もの間、数回にわたる期間延長改正を経て継続されてきました。本
年3月末に5年前の平成15年に延長した期限が切れましたが、参
議院が再延長を認めなかったことから混乱してきたわけです。この
ほか軽油引取税、自動車重量税にも暫定税率が上乗せされており、
上乗せされた税額は年間約2兆6000億円。この財源は、国に約
1兆7000億円、地方に約9000億円が配分されています。

 この暫定税率が期限切れになると、国も地方も財政的にやりくり
ができなくなりますので、政府・与党はなんとしても継続させたい、
一方、野党・民主党は政権獲得の最大の争点として絶対に認めない、
という方針をそれぞれ打ち出しました。
 これに対して、地方六団体(全国知事会・全国市長会・全国町村
会・全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議
長会)は全員一致で暫定税率維持を支持。ただ、世論調査によれば、
国民の過半数は暫定税率の廃止を支持していると言われています。

「1月末の与野党合意」
 暫定税率の適用期限は3月末でした。私は、暫定税率の根拠とな
る「税制改正関連法案」を早期に成立させるためには、1月末に政
府案を衆議院で議決したうえで、3月末を迎える前までに与野党で
お互いに話し合い、修正していけばよいと思っていました。
 しかし、あいまいな議長あっせん案をのんで、1月末に衆議院で
の議決をしなかったのです。政府・自民党が妥協し、与野党合意し
た形ですが、このことが、大きな混乱を招く事態につながった最大
の原因だったのではないでしょうか。結果として、議長の権威を失
墜させてしまっただけなのです。

「2月末の政府の強行採決」
 国会の意思が成立するためには、衆参両議院の議決が一致するこ
とが必要なのですが、憲法では、参議院が衆議院の議決した予算案
を受け取った後30日以内に議決しないときには、衆議院の議決が
国会の議決となることになっています(30日ルール)。また、法
律案については、参議院に送付後60日以内に議決しないときには、
参議院がその法律案を否決したものと見なすことができ、衆議院で
出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときに法律として成
立するということになっています(60日ルール)。

 なぜ、1月末の与野党合意から1カ月後に気が変わってしまった
のか分かりませんが、政府・与党はこの規定を利用することにして、
2月末に衆議院で政府案の強行採決を行いました。予算案は30日
ルールにより3月末に成立させ、暫定税率は期限切れで廃止後、
60日ルールにより4月末には復活できる可能性を担保する、とい
う方針を選択したのです。
 ただし、この方針を選択したことにより、政府・与党は、議長が
裁定した「3月末に一定の結論を出す」という与野党合意を守らな
いことの口実を、民主党に与えてしまったのだと思っています。で
も、結果として、強行採決はしておいて良かったとも感じています。

「3月末の予算成立と暫定税率の期限切れ」
 結果、3月末まで何も議論が進まないまま、政府予算案は30日
ルールで成立、暫定税率は期限切れで廃止、ということで歳入欠陥
が確実になってしまいました。結局、政府・与党には、1カ月後に
60日ルールを使って暫定税率復活を目指すしか手がなかったので
す。一般消費者や石油業界の混乱、政府の歳入欠陥も生じさせない
道もあったのではないかとも思うのですが(例えば、政府として石
油元売業界と話をして、蔵出し税の代わりに1カ月間だけ卸売価格
を下げず、差額は善意の“寄付”、あるいは“協力金”として国に
納付してもらうなど・・・公正取引委員会が何か言うかもしれませ
んが)。

「4月末の衆議院での再議決」
 予定通り、参議院では60日間審議をしなかったので、否決した
ものと見なして衆議院で再議決し、暫定税率は復活することになり
ました。この議決の際、衆議院議長が議長席に着くことを野党が妨
害するという、昔よくあった図式も現れました。

 果たして、4月だけの1カ月間のガソリン価格の減額は意味があ
ったのでしょうか?もちろん、国民とすればガソリン価格が下がっ
た方が良いということになるのだろうとは思いますが・・・。しか
し、地球環境の問題を考えれば、現段階でのガソリン価格の値下げ
は適当ではないと思われますし、国・地方の財政状況を考えても、
暫定税率をなくしてしまうことは難しいのです。ただ、混乱を招い
ただけとしか思えません。

「5月13日の再議決」
 暫定税率復活の問題は、歳入欠陥を生じさせないよう税源を維持
することが争点でしたが、道路特定財源の問題の争点は、復活した
税源の使い道です。
 5月12日、税源を道路整備に充てるとした「道路整備費財源特
例法改正案」を参議院で野党が否決。政府は、翌日、道路整備に特
定した財源とするのは本年度限りとし、平成21年度から一般財源
にするとの閣議決定をした上で、この法案を衆議院での賛成を得て
再可決し、成立させました。

 この特例法改正案の再議決は、4月30日に成立した税制改正関
連法案とは異なり、参議院が否決したことを受けて、それを覆すた
めに再議決したもので、参議院で採決しなくても否決したとみなせ
る60日ルールとは少し違うようです。でも結果は同じことで、国
会はこの間何をしていたのかよく分かりません。野党からは、再議
決に当たり、自民党内から造反議員が出ることを期待しているとの
報道もありましたが・・・(逆に野党側の欠席・造反が目立ったよ
うです)。

 福田首相は4月30日の記者会見で、特例法改正案について、
「7千億円の地方への交付金の根拠となる。凍結した事業を再開し、
地方経済を下支えするためにも、一日でも早く成立させなければな
らない。」ということを強調していました。

「地方自治体にとっての予算案」
 予算編成は地方自治体にとって、市民生活に直結する重要な作業
です。毎年、国の方針に基づいて予算規模を想定し、市民の皆さん
や議会の要望をお聞きしながら、秋口には本格的な予算編成作業に
取り掛かっています。そして、12月の政府予算の閣議決定以降と
もなると、作業はほぼヤマ場を迎えている状態であり、この時点で
中途の方針変更は難しいのが実情です。ですから国の予算審議につ
いては、30日ルールという衆議院の優位性を憲法は認めているの
です。
 地方でも、首長の予算権は強く、提案権は首長にあります。議会
において修正する場合、とりわけ増額修正する場合には、首長の予
算提案趣旨を損なう修正は認められないことになっています。

「道路特定財源」
 確かに、「暫定」という名で、故・田中角栄元首相時代から30
年以上も続いているのはおかしいと思います。ただし、その不合理
を、与野党も含めて特に問題視してこなかったという歴史もありま
す。今回は、参議院で与野党が逆転したことにより、急に浮上した
だけです。もっと早くから与野党の議論を始めるべきだったと言え
るのではないでしょうか。

「福田政権の支持率 20%前後」
 福田政権にとっては、年金や長寿医療制度(後期高齢者医療制度)
の問題も重なって、最悪の状況になっていることは間違いないでし
ょう。この状況で、総選挙に踏み切るのは、恐らく困難だろうと思
います。できるだけ先に延ばし、政権の浮揚策を考え、手を打って
から、と考えるのが当たり前でしょう。

「皆が感じていること(もちろん私も含めて)」
 今回の暫定税率復活について、地方六団体は全員一致で支持して
いるのですが、残念ながら国民の支持は弱いのが現実です。

 ただし、民主党が望んでいる総選挙は、衆議院議員の任期が切れ
る来年9月近くまではないのだろうと思っています。
 理由は、解散・総選挙を行うかどうかの主導権は、最大与党であ
る自民党が握っており、その自民党は、次の総選挙で現在の議席数
(3分の2)を確保することが難しいと考えていますから、なるべ
く長く現在の再議決できる状況を維持しようとするでしょう。また、
民主党を中心とする野党が、次の総選挙で衆議院の過半数を獲得で
きる保証はありませんし、どちらかというと、与党が衆議院の過半
数を維持する可能性が高いのではないか、とも言われています。

 野党は、福田首相に対する問責決議案を提出するとかしないとか
言っていますが、法的な効力のない話ですし、ましてや解散に追い
込むことはまず無理でしょう。参議院は任期が来るまで選挙はない
のですから、参議院での野党有利の体制はこの先かなり長い間、変
わらないことも事実です。

 以上の観点から、総選挙は、当分の間ないと考えられます。今後、
60日ルールや30日ルールが適用される場面が増えるであろうこ
とは容易に推測できます。ただ、総選挙後、民主党が過半数を獲得
すれば、当然政権交代でしょうが、与党が過半数を少しだけ超えた
場合には、二院制の欠点が大きく出てきそうです。予算案について
は、30日ルールで衆議院の優位は保障されていますが、そのほか
の議案の再議決には3分の2の賛成が必要になりますから、仮に過
半数の議員がいても再議決することは難しいでしょう。

 このままでは、日本の政治が機能不全に陥り、動きが取れない状
態であるということは誰が見ても明らかで、これをどうするか。オ
ール・オア・ナッシング(all or nothing)では、
単なる対決であり、政治ではありません。話し合いによる局面打開
が必要なのだと思っています。
 しかも、このところの原油価格高騰の影響により、高騰が始まる
前の時点と比較すると、ガソリン価格に占める暫定税率の割合は小
さくなっており、受け止め方も違ってきているのではないでしょう
か。

 「話し合い政治の実現」か、「ガラガラポン(政界再編)」しか
ないのではないでしょうか。ただし、何を軸にするのか、誰が主導
権を取るのか、いずれにしろ難しいと思います。小泉元首相は「自
民党をぶっ壊す」と宣言して自民党選出の首相に当選したのですが、
今考えれば、見事にそれを実現したということかもしれません。た
だし、そんなことを言っていたら地方は困るのです。今年の秋ごろ、
すなわち地方自治体も予算編成に取り掛かるころまでには、何らか
の解決策を見つけてほしいと心から期待しています。

 今回の騒動で分かったことが幾つかあります。
(1)意見の違う組織同士が対等にぶつかりあった時には、「話し
  合い」なしでは何も生まれない・・・表面的な建前論争から一
  歩も出られない。責任ある組織が最終的な姿を描き、担保を用
  意した上で、そこに向かって妥協点を導き出すしかない。
(2)意見が違うことは仕方がないこと。ただし、信頼関係がない
  ところからは何も生まれてはこない・・・根回しや水面下での
  話し合いを否定してはいけないのではないか。むしろ、大切な
  場合もある。

2008年5月8日木曜日

長野市の財政事情(2)


 今回は、地方自治体の財政状況を確認するために国が設けた4つ
の指標について、数値の内容と長野市の状況について説明させてい
ただきたいと思います。

(1)「実質赤字比率」
 (イエローライン:11.25%、レッドライン:20%)
 一般会計などを対象とした実質赤字の「標準財政規模」に対する
比率です。一般会計などの実質赤字を「標準財政規模」で除して求
めます。

 長野市では、平成18年度の実質赤字はありません。従って0%
です。実質というのは、実態として赤字か否かによって、比率を算
出するということを意味しています。
 具体的には、
 ・支払いをするために、翌年度早々に入ってくるお金を使って支
  払うこと
 ・事業が完了しているにもかかわらず、お金がないことから、支
  払いを翌年度に先送りしてしまうこと
 ・お金がないことを理由に翌年度に事業を繰り越すこと
このようなことがあると赤字ということになります。長野市にはこ
のようなことはありませんので、「実質赤字比率」が0%となるの
です。

(2)「連結実質赤字比率」
 (イエローライン:16.25%、レッドライン:30%)
 全会計を対象とした実質赤字(または資金の不足額)の「標準財
政規模」に対する比率です。

 長野市には、一般会計以外に、国民健康保険、老人保健医療、介
護保険、交通災害共済、簡易水道、上水道、下水道、病院、観光施
設、スキー場等々、たくさんの会計がありますが、赤字になってい
るのは戸隠観光施設事業会計(戸隠スキー場や戸隠キャンプ場を運
営するための企業会計)の約10億円だけです。
 もっとも戸隠観光施設事業会計以外でも単年度で赤字になってい
る会計はありますが、すべて一般会計でカバーしているので赤字で
はないのです。また、戸隠観光施設事業会計の赤字もほかの会計の
黒字がこの赤字を上回っていることから、この比率も「実質赤字比
率」と同様に0%です。

(3)「実質公債費比率」
 (イエローライン:25%、レッドライン:35%)
 公債費(毎年度の借入金返済額)や公債費に準じる経費(市の関
連団体の借入金返済に対して市が交付している補助金や、企業会計
の借入金返済に対して市の一般会計から繰り出しているお金など)
による財政負担の度合いを客観的に示す比率として、平成17年度
決算から導入された指標です。公債費および公債費に準ずる経費に
充当した一般財源を「標準財政規模」で除して求めます。

 この比率のイエローラインとレッドラインをご覧になって、おや、
と思われた方も多いのではないでしょうか。前回お話しさせていた
だいたように、長野市は、18.6%になったということでご心配
をお掛けしてしまったのですが、イエローラインが25%であれば
問題ないはずです。

 実は、長野市の「実質公債費比率」が超えてしまったのは、この
イエローラインではなく、「地方債の協議制度」という、地方自治
体が地方債を発行する際の手続きの中で定められた警戒ラインなの
です。この警戒ラインは、レッドラインやイエローラインより手前
の話として理解してください。

 ちなみに、平成17年度までは、国または都道府県の許可がなけ
れば、地方自治体では地方債を発行することができませんでした。
この「地方債の協議制度」が導入されたことにより、協議という手
続きを経れば、国または都道府県の同意がなくても地方自治体の裁
量により地方債を発行できるようになったのです。
 この制度と「実質公債費比率」の関連は次のようになっています。
  18%未満:国または都道府県との協議によって新たな地方債
        を発行できる団体
  18%以上25%未満:公債費負担適正化計画の策定が必要と
        なり、新たに地方債を発行するには、国または都
        道府県の許可が必要になる団体
  25%以上:新たな地方債の発行が制限される団体

 「実質公債費比率」は、過去3年分の平均で示すことになってい
ます。長野市では平成18年度に18%を超えてしまいましたので、
平成19年度に一気に単年度比率を改善しても、18%未満になる
までには時間的なずれが生じることになります。
 次をご覧ください。

 長野市では、過去に借り入れた金利が高い市債を繰り上げ返済し
たり、低金利のものに借り換えたりしています。加えて新規の市債
の発行も抑制するなど、財政健全化に向けた取り組みを続けていま
すので、今後、単年度では、
  平成19年度:17.8%
  平成20年度:17.2%
  平成21年度:17.6%
  平成22年度:15.6%
と、「実質公債費比率」は着実に改善する予定なのです。

 しかし、過去3年分の平均となると、
  平成18年度:18.6%
  平成19年度:18.3%
  平成20年度:18.1%
  平成21年度:17.5%
ということになってしまいます。平成20年度までは仕方がないよ
うです。

 ただ、国では、われわれ地方自治体が主張している「都市計画税
を公債費の特定財源として算入すべき」という要請に応えて、この
考え方を「実質公債費比率」や「将来負担比率」を算出する際に導
入する方向で検討しています。これが実現すると、一気に解消する
可能性もあります。

 都市計画税は、市街化区域に土地や家屋をお持ちになっている皆
さんからいただいている税金です。この税金は、都市計画区域の公
園、下水道、生活道路整備に要する経費の一部を負担していただく
ために設けられています。従って、国に対しては都市計画区域の整
備のための公債費から、この都市計画税を特定財源として控除する
よう求めているものです。

(4)「将来負担比率」
 (イエローライン:350%)
 一般会計が将来負担すべき実質的な負債の「標準財政規模」に対
する比率で、平成19年度決算から新たに算出することになった指
標です。
 「将来負担額」を「標準財政規模」で除して求めます。

 「将来負担額」とは、その名のとおり、市が将来的に負担する必
要があるお金のことを言います。
 具体的には、
  ・一般会計などの市債残高
  ・そのほかの会計(企業会計・特別会計のほか、一部事務組合・
   第三セクターなどの会計も含みます)の負債額のうち、市の
   一般会計で負担しなければならない金額
  ・議会の議決により、翌年度以降に支出することが決まってい
   る金額
  ・市の全職員が年度末に退職すると仮定した場合に必要になる
   手当て支給額
等々の合計額ですが、次の金額を控除して算出します。
  ・将来負担に対して充当できる基金(現金、預金、国債など)
  ・将来負担に対して見込まれる国や県の補助金
  ・他団体などからいただくことができる負担金など
  ・将来的に交付税で措置される見込みの額

 なお、「将来負担額」の詳細な算出方法については、まだ国から
は示されていないので試算値となってしまいますが、平成18年度
決算では230%程度になります。この数字の意味するところは、
現時点での長野市の将来の負担は、「標準財政規模」の約2.3年
分ということになります。
 この2.3年分が多いのか少ないのかは、全国のほかの自治体と
比較するなど今後分析をしていく必要がありますが、国の示したイ
エローラインの350%(3.5年分)には達していません。

 前回と今回の2回にわたりお話ししてきました4つの指標は、平
成19年に成立した「地方公共団体財政健全化法」に示されたもの
で、平成19年度決算から議会や市民の皆さんに公表していくこと
になっています。これからの財政運営においては、この4つの指標
の動向に十分注意を払い、少しでも悪化する兆しがあれば、速やか
に軌道修正を図ることが必要になると考えています。

 ただ、私的な見解としては、国の指標にはまだ問題があると考え
ています。
 確かに今回の指標には、市の全職員が年度末に退職すると仮定し
て計算した退職金や第三セクターの負債額を算入するなど、今まで
とは格段に違う計算式が導入されており、透明性は高くなっていま
す。しかし、もう一つ問題なのは、未確定の将来負担が入っていな
いのです。すなわち、長野市で言えば、広域連合で建設することに
なっているごみ焼却施設の建設費をはじめ、耐震化対策をしなくて
はならない学校施設や市役所・市民会館の耐震補強・建て替え工事
の費用などのことです。
 それぞれ数年のうちには絶対に実施しなくてはならないのですが、
確定していないが故に、計算に入っていないのです。算入根拠が難
しいことは分かりますが、将来負担額として考慮しなくてはならな
いものと考えています。

2008年5月1日木曜日

長野市の財政事情(1)


 今回は、2週にわたり長野市の財政事情のことを少しお話しさせ
ていただきます。
 長野市の財政について、昨年、「実質公債費比率」が警戒ライン
を超えたということで、心配される向きもあるようですが、基本的
には心配ないものと考えていますので、その辺りの事情も説明させ
ていただきます。

 具体的には、平成18年度決算において、長野市の「実質公債費
比率」が、国の定めた警戒ラインである18%を超えて18.6%
になり、長野市は、国の許可を受けなければ新たな地方債が発行で
きない、いわゆる「許可団体」になってしまいました。このことで、
市民の皆さんにご心配をお掛けしてしまったことと思います。

 前年の平成17年度決算時の「実質公債費比率」は、16.9%
だったのですから、一気に1.7ポイントも上昇してしまったこと
になります。確かに長野市には、オリンピック施設建設のために借
り入れた多額の借入金があることから、毎年の返済額が200億円
を超えており、「実質公債費比率」は比較的高い水準にあることは
事実です。
 しかし、今回大きく上昇した要因は、この比率を算定する際の国
のルールが改正されたことにあり、急に長野市の財政状況が悪くな
ったわけではないのです。

 私は、市長就任以来、必要な事業を実施するために、毎年約10
0億円を借り入れていますが、200億円以上の借入金を返済して
います。すなわち毎年100億円ずつ借入金を減らすことを実行し
ています。途中、4町村との合併により一時的に約300億円の借
入金が増えましたが、それもすでに克服して確実に市債残高を減ら
してきているのです。

 財政の数値については、一般的に分かりにくいと、いつもおしか
りを受けています。私も最近ようやく分かってきたところですから、
外部の方が「分かりにくい」とおっしゃるのは無理もないのです。
今回は皆さんに分かっていただくために、できるだけ分かりやすく
お話ししてみたいと考えています。

 先に「実質公債費比率」を算定する際のルールが改正されたとお
話ししましたが、具体的な例を挙げてみます。市には、市の関連団
体の借入金返済に対して交付している補助金があるのですが、「実
質公債費比率」を算定するに当たり、これまでこの補助金について
は利子のみが算入されていました。それが今回から元金も算入され
るようになったのです。
 また、公営企業の借入金返済のために一般会計から繰り出してい
るお金もあるのですが、これについても算入される範囲が拡大され
ました。加えて、分母である「標準財政規模」が縮小したことも比
率を上昇させた要因と考えています。

 ただルールの変更が原因だと不満を言っても借入金が多いことは
事実ですし、国全体のことを考えれば、早めに地方自治体の健全化
を促すという国の姿勢は評価すべきです。長野市も努力し、市財政
の健全化を図っていくべきであることは当然です。

 国としても、地方自治体の財政悪化が進んでいることを危惧(き
ぐ)していることは事実でしょう。北海道夕張市の状況は必ずしも
特殊事例ではなく、地方自治体全般に可能性があるのではないか、
だとすれば事前に手を打つ必要があると考えているようです(ちょ
っと動きが遅かったのではないかとも思いますが)。

 そこで国では、いきなりレッドカードを出すのではなく、事前の
監視を強め、破たんの危険がある場合には早めにイエローカードを
出す。すなわち、本当に悪化してしまう前に是正を促すという方針
を決め、次のとおり、自治体の財政状況を確認するための4つの指
標とそれぞれの基準を発表しました。

(1)「実質赤字比率」
 イエローライン:11.25%、レッドライン:20%
 (平成18年度決算時の長野市:0%)
(2)「連結実質赤字比率」
 イエローライン:16.25%、レッドライン:30%
 (平成18年度決算時の長野市:0%)
(3)「実質公債費比率」
 イエローライン:25%、レッドライン:35%
 (平成18年度決算時の長野市:18.6%)
(4)「将来負担比率」
 イエローライン:350%(レッドラインはありません)
 (平成18年度決算時の長野市:230%程度)

 この4つの指標のうち、いずれかがイエローラインを超えてしま
うと、「財政健全化計画」という地方自治体の自主的な努力によっ
て財政状況を改善するための計画をつくり、健全化に努めることに
なります。
 また、いずれかの指標がレッドラインを超えてしまうと、北海道
夕張市のように「財政再生計画」という再生計画を策定し、国の厳
しい関与を受けながら財政再建を行うことになってしまいます。

 4つの数値は、すべて「標準財政規模」で除して求めます。まず
は、この「標準財政規模」についてお話しします。
 「標準財政規模」とは、標準的な一般財源の規模を示すもので、
市税や普通交付税、地方譲与税等の合計額により、次の計算式を使
って求めます。

 「標準財政規模」=(基準財政収入額-地方譲与税等)÷0.75
          +地方譲与税等+普通交付税

 なかなか難解なのですが、一般のご家庭に例えると、この「標準
財政規模」というのは通常の年収ということで理解してください。

 4つの数値は、この年収に対するさまざまな割合を算出して、財
政の健全度を示そうとしているのです。次に、4つの数値について、
お話ししたいと思いますが、少し長くなりますので、続きは次回お
話しさせていただきます。

 今回のところは、
(1)長野市の「実質公債費比率」が、昨年、国が定めた警戒ライ
 ンを超えてしまいましたが、原因は、指標を算定する際の国のル
 ールが改正されたことにあり、急に長野市の財政状況が悪くなっ
 たわけではないこと。
(2)国としても地方自治体の財政悪化が進んでいることを危惧し
 ており、本当に悪化してしまう前に是正を促すため、自治体の財
 政状況を確認する4つの指標と基準を設けたこと。

という2点についてご理解いただきたいと思います。