2008年5月8日木曜日

長野市の財政事情(2)


 今回は、地方自治体の財政状況を確認するために国が設けた4つ
の指標について、数値の内容と長野市の状況について説明させてい
ただきたいと思います。

(1)「実質赤字比率」
 (イエローライン:11.25%、レッドライン:20%)
 一般会計などを対象とした実質赤字の「標準財政規模」に対する
比率です。一般会計などの実質赤字を「標準財政規模」で除して求
めます。

 長野市では、平成18年度の実質赤字はありません。従って0%
です。実質というのは、実態として赤字か否かによって、比率を算
出するということを意味しています。
 具体的には、
 ・支払いをするために、翌年度早々に入ってくるお金を使って支
  払うこと
 ・事業が完了しているにもかかわらず、お金がないことから、支
  払いを翌年度に先送りしてしまうこと
 ・お金がないことを理由に翌年度に事業を繰り越すこと
このようなことがあると赤字ということになります。長野市にはこ
のようなことはありませんので、「実質赤字比率」が0%となるの
です。

(2)「連結実質赤字比率」
 (イエローライン:16.25%、レッドライン:30%)
 全会計を対象とした実質赤字(または資金の不足額)の「標準財
政規模」に対する比率です。

 長野市には、一般会計以外に、国民健康保険、老人保健医療、介
護保険、交通災害共済、簡易水道、上水道、下水道、病院、観光施
設、スキー場等々、たくさんの会計がありますが、赤字になってい
るのは戸隠観光施設事業会計(戸隠スキー場や戸隠キャンプ場を運
営するための企業会計)の約10億円だけです。
 もっとも戸隠観光施設事業会計以外でも単年度で赤字になってい
る会計はありますが、すべて一般会計でカバーしているので赤字で
はないのです。また、戸隠観光施設事業会計の赤字もほかの会計の
黒字がこの赤字を上回っていることから、この比率も「実質赤字比
率」と同様に0%です。

(3)「実質公債費比率」
 (イエローライン:25%、レッドライン:35%)
 公債費(毎年度の借入金返済額)や公債費に準じる経費(市の関
連団体の借入金返済に対して市が交付している補助金や、企業会計
の借入金返済に対して市の一般会計から繰り出しているお金など)
による財政負担の度合いを客観的に示す比率として、平成17年度
決算から導入された指標です。公債費および公債費に準ずる経費に
充当した一般財源を「標準財政規模」で除して求めます。

 この比率のイエローラインとレッドラインをご覧になって、おや、
と思われた方も多いのではないでしょうか。前回お話しさせていた
だいたように、長野市は、18.6%になったということでご心配
をお掛けしてしまったのですが、イエローラインが25%であれば
問題ないはずです。

 実は、長野市の「実質公債費比率」が超えてしまったのは、この
イエローラインではなく、「地方債の協議制度」という、地方自治
体が地方債を発行する際の手続きの中で定められた警戒ラインなの
です。この警戒ラインは、レッドラインやイエローラインより手前
の話として理解してください。

 ちなみに、平成17年度までは、国または都道府県の許可がなけ
れば、地方自治体では地方債を発行することができませんでした。
この「地方債の協議制度」が導入されたことにより、協議という手
続きを経れば、国または都道府県の同意がなくても地方自治体の裁
量により地方債を発行できるようになったのです。
 この制度と「実質公債費比率」の関連は次のようになっています。
  18%未満:国または都道府県との協議によって新たな地方債
        を発行できる団体
  18%以上25%未満:公債費負担適正化計画の策定が必要と
        なり、新たに地方債を発行するには、国または都
        道府県の許可が必要になる団体
  25%以上:新たな地方債の発行が制限される団体

 「実質公債費比率」は、過去3年分の平均で示すことになってい
ます。長野市では平成18年度に18%を超えてしまいましたので、
平成19年度に一気に単年度比率を改善しても、18%未満になる
までには時間的なずれが生じることになります。
 次をご覧ください。

 長野市では、過去に借り入れた金利が高い市債を繰り上げ返済し
たり、低金利のものに借り換えたりしています。加えて新規の市債
の発行も抑制するなど、財政健全化に向けた取り組みを続けていま
すので、今後、単年度では、
  平成19年度:17.8%
  平成20年度:17.2%
  平成21年度:17.6%
  平成22年度:15.6%
と、「実質公債費比率」は着実に改善する予定なのです。

 しかし、過去3年分の平均となると、
  平成18年度:18.6%
  平成19年度:18.3%
  平成20年度:18.1%
  平成21年度:17.5%
ということになってしまいます。平成20年度までは仕方がないよ
うです。

 ただ、国では、われわれ地方自治体が主張している「都市計画税
を公債費の特定財源として算入すべき」という要請に応えて、この
考え方を「実質公債費比率」や「将来負担比率」を算出する際に導
入する方向で検討しています。これが実現すると、一気に解消する
可能性もあります。

 都市計画税は、市街化区域に土地や家屋をお持ちになっている皆
さんからいただいている税金です。この税金は、都市計画区域の公
園、下水道、生活道路整備に要する経費の一部を負担していただく
ために設けられています。従って、国に対しては都市計画区域の整
備のための公債費から、この都市計画税を特定財源として控除する
よう求めているものです。

(4)「将来負担比率」
 (イエローライン:350%)
 一般会計が将来負担すべき実質的な負債の「標準財政規模」に対
する比率で、平成19年度決算から新たに算出することになった指
標です。
 「将来負担額」を「標準財政規模」で除して求めます。

 「将来負担額」とは、その名のとおり、市が将来的に負担する必
要があるお金のことを言います。
 具体的には、
  ・一般会計などの市債残高
  ・そのほかの会計(企業会計・特別会計のほか、一部事務組合・
   第三セクターなどの会計も含みます)の負債額のうち、市の
   一般会計で負担しなければならない金額
  ・議会の議決により、翌年度以降に支出することが決まってい
   る金額
  ・市の全職員が年度末に退職すると仮定した場合に必要になる
   手当て支給額
等々の合計額ですが、次の金額を控除して算出します。
  ・将来負担に対して充当できる基金(現金、預金、国債など)
  ・将来負担に対して見込まれる国や県の補助金
  ・他団体などからいただくことができる負担金など
  ・将来的に交付税で措置される見込みの額

 なお、「将来負担額」の詳細な算出方法については、まだ国から
は示されていないので試算値となってしまいますが、平成18年度
決算では230%程度になります。この数字の意味するところは、
現時点での長野市の将来の負担は、「標準財政規模」の約2.3年
分ということになります。
 この2.3年分が多いのか少ないのかは、全国のほかの自治体と
比較するなど今後分析をしていく必要がありますが、国の示したイ
エローラインの350%(3.5年分)には達していません。

 前回と今回の2回にわたりお話ししてきました4つの指標は、平
成19年に成立した「地方公共団体財政健全化法」に示されたもの
で、平成19年度決算から議会や市民の皆さんに公表していくこと
になっています。これからの財政運営においては、この4つの指標
の動向に十分注意を払い、少しでも悪化する兆しがあれば、速やか
に軌道修正を図ることが必要になると考えています。

 ただ、私的な見解としては、国の指標にはまだ問題があると考え
ています。
 確かに今回の指標には、市の全職員が年度末に退職すると仮定し
て計算した退職金や第三セクターの負債額を算入するなど、今まで
とは格段に違う計算式が導入されており、透明性は高くなっていま
す。しかし、もう一つ問題なのは、未確定の将来負担が入っていな
いのです。すなわち、長野市で言えば、広域連合で建設することに
なっているごみ焼却施設の建設費をはじめ、耐震化対策をしなくて
はならない学校施設や市役所・市民会館の耐震補強・建て替え工事
の費用などのことです。
 それぞれ数年のうちには絶対に実施しなくてはならないのですが、
確定していないが故に、計算に入っていないのです。算入根拠が難
しいことは分かりますが、将来負担額として考慮しなくてはならな
いものと考えています。