2008年5月15日木曜日

政局の混乱・自治体の願い


 5月13日に政府・与党は、本年度から10年間、ガソリン税収
などを道路整備に充てると定めた「道路整備費財源特例法改正案」
を衆議院で再可決し、成立させました。あわせて同日、福田首相の
公約(?)に基づいて道路特定財源は平成20年度限りとし、来年
度から一般財源化するという閣議決定がありました。10年間と言
いながら本年度のみというのは、いかにも泥縄式で整合性がとれて
いませんが・・・ただし、閣議決定した内容には、必要な道路はつ
くるとの一文も入っています。
 まあ、一般財源化が時代の流れなので仕方ないが、予算審議の段
階で、一般財源化された枠の中から道路財源を確保すればよい、と
いうことでしょうか。

 これにより、昨年から波紋を広げてきたこの問題も、ようやく当
面の決着がつき、今年度の問題とすれば、4月に失ってしまった
12分の1の財源をどうするか、ということでしょう。でも、まだ
さまざまな課題が残っていると思っていますので、もう一度、私が
感じてきたことについて書かせていただきます。

「昨年の参議院議員選挙後のねじれ」
 昨年の参議院議員選挙の結果、衆議院では与党が議席の3分の2
を占める一方で、参議院では野党が過半数の議席を獲得するという、
いわゆる「ねじれ現象」が発生しました。これにより、その後の政
局が混乱するということは、誰もが予測できたことだと思います。

 まず、国会運営の難しさが如実に表れたのは、「自衛隊のインド
洋での給油問題」です。結果、「テロ対策特別措置法」が昨年11
月の期限切れにより失効するということになり、これまでにない混
乱となりました。故に、その後、自民党と民主党が連立するという
「大連立構想」が模索されたりもしていましたが・・・。そういえ
ば、国会人事の日銀総裁問題もかなり紛糾しました。給油問題は、
期限切れにより自衛隊が一時帰還。その後、国会の60日ルールに
より再議決したことで元に戻り、日銀総裁は、野党も受け入れ可能
な人事に差し替えられたことでようやく落ち着きました。
 個人的には、「ねじれ」が真の意味での話し合いによる政治が行
われる原点になると期待もしていたのですが・・・。残念ながら今
のところ、そうはなっていません。

「道路特定財源と暫定税率問題」
 国の「道路特定財源」は、もともと道路を迅速に整備する財源を
確保するためにつくられた仕組みです。この財源には、道路整備は
自動車利用者が負担するという考えに基づいて、ガソリンに対する
揮発油税のほか、軽油引取税、自動車重量税などが充当されていま
す。本来の揮発油税は、ガソリン1リットル当たり24.3円です
が、昭和49年から暫定税率としてその2倍にあたる48.6円が
課税されています。

 以来、暫定税率による課税は、時限立法でありながら30年以上
もの間、数回にわたる期間延長改正を経て継続されてきました。本
年3月末に5年前の平成15年に延長した期限が切れましたが、参
議院が再延長を認めなかったことから混乱してきたわけです。この
ほか軽油引取税、自動車重量税にも暫定税率が上乗せされており、
上乗せされた税額は年間約2兆6000億円。この財源は、国に約
1兆7000億円、地方に約9000億円が配分されています。

 この暫定税率が期限切れになると、国も地方も財政的にやりくり
ができなくなりますので、政府・与党はなんとしても継続させたい、
一方、野党・民主党は政権獲得の最大の争点として絶対に認めない、
という方針をそれぞれ打ち出しました。
 これに対して、地方六団体(全国知事会・全国市長会・全国町村
会・全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議
長会)は全員一致で暫定税率維持を支持。ただ、世論調査によれば、
国民の過半数は暫定税率の廃止を支持していると言われています。

「1月末の与野党合意」
 暫定税率の適用期限は3月末でした。私は、暫定税率の根拠とな
る「税制改正関連法案」を早期に成立させるためには、1月末に政
府案を衆議院で議決したうえで、3月末を迎える前までに与野党で
お互いに話し合い、修正していけばよいと思っていました。
 しかし、あいまいな議長あっせん案をのんで、1月末に衆議院で
の議決をしなかったのです。政府・自民党が妥協し、与野党合意し
た形ですが、このことが、大きな混乱を招く事態につながった最大
の原因だったのではないでしょうか。結果として、議長の権威を失
墜させてしまっただけなのです。

「2月末の政府の強行採決」
 国会の意思が成立するためには、衆参両議院の議決が一致するこ
とが必要なのですが、憲法では、参議院が衆議院の議決した予算案
を受け取った後30日以内に議決しないときには、衆議院の議決が
国会の議決となることになっています(30日ルール)。また、法
律案については、参議院に送付後60日以内に議決しないときには、
参議院がその法律案を否決したものと見なすことができ、衆議院で
出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときに法律として成
立するということになっています(60日ルール)。

 なぜ、1月末の与野党合意から1カ月後に気が変わってしまった
のか分かりませんが、政府・与党はこの規定を利用することにして、
2月末に衆議院で政府案の強行採決を行いました。予算案は30日
ルールにより3月末に成立させ、暫定税率は期限切れで廃止後、
60日ルールにより4月末には復活できる可能性を担保する、とい
う方針を選択したのです。
 ただし、この方針を選択したことにより、政府・与党は、議長が
裁定した「3月末に一定の結論を出す」という与野党合意を守らな
いことの口実を、民主党に与えてしまったのだと思っています。で
も、結果として、強行採決はしておいて良かったとも感じています。

「3月末の予算成立と暫定税率の期限切れ」
 結果、3月末まで何も議論が進まないまま、政府予算案は30日
ルールで成立、暫定税率は期限切れで廃止、ということで歳入欠陥
が確実になってしまいました。結局、政府・与党には、1カ月後に
60日ルールを使って暫定税率復活を目指すしか手がなかったので
す。一般消費者や石油業界の混乱、政府の歳入欠陥も生じさせない
道もあったのではないかとも思うのですが(例えば、政府として石
油元売業界と話をして、蔵出し税の代わりに1カ月間だけ卸売価格
を下げず、差額は善意の“寄付”、あるいは“協力金”として国に
納付してもらうなど・・・公正取引委員会が何か言うかもしれませ
んが)。

「4月末の衆議院での再議決」
 予定通り、参議院では60日間審議をしなかったので、否決した
ものと見なして衆議院で再議決し、暫定税率は復活することになり
ました。この議決の際、衆議院議長が議長席に着くことを野党が妨
害するという、昔よくあった図式も現れました。

 果たして、4月だけの1カ月間のガソリン価格の減額は意味があ
ったのでしょうか?もちろん、国民とすればガソリン価格が下がっ
た方が良いということになるのだろうとは思いますが・・・。しか
し、地球環境の問題を考えれば、現段階でのガソリン価格の値下げ
は適当ではないと思われますし、国・地方の財政状況を考えても、
暫定税率をなくしてしまうことは難しいのです。ただ、混乱を招い
ただけとしか思えません。

「5月13日の再議決」
 暫定税率復活の問題は、歳入欠陥を生じさせないよう税源を維持
することが争点でしたが、道路特定財源の問題の争点は、復活した
税源の使い道です。
 5月12日、税源を道路整備に充てるとした「道路整備費財源特
例法改正案」を参議院で野党が否決。政府は、翌日、道路整備に特
定した財源とするのは本年度限りとし、平成21年度から一般財源
にするとの閣議決定をした上で、この法案を衆議院での賛成を得て
再可決し、成立させました。

 この特例法改正案の再議決は、4月30日に成立した税制改正関
連法案とは異なり、参議院が否決したことを受けて、それを覆すた
めに再議決したもので、参議院で採決しなくても否決したとみなせ
る60日ルールとは少し違うようです。でも結果は同じことで、国
会はこの間何をしていたのかよく分かりません。野党からは、再議
決に当たり、自民党内から造反議員が出ることを期待しているとの
報道もありましたが・・・(逆に野党側の欠席・造反が目立ったよ
うです)。

 福田首相は4月30日の記者会見で、特例法改正案について、
「7千億円の地方への交付金の根拠となる。凍結した事業を再開し、
地方経済を下支えするためにも、一日でも早く成立させなければな
らない。」ということを強調していました。

「地方自治体にとっての予算案」
 予算編成は地方自治体にとって、市民生活に直結する重要な作業
です。毎年、国の方針に基づいて予算規模を想定し、市民の皆さん
や議会の要望をお聞きしながら、秋口には本格的な予算編成作業に
取り掛かっています。そして、12月の政府予算の閣議決定以降と
もなると、作業はほぼヤマ場を迎えている状態であり、この時点で
中途の方針変更は難しいのが実情です。ですから国の予算審議につ
いては、30日ルールという衆議院の優位性を憲法は認めているの
です。
 地方でも、首長の予算権は強く、提案権は首長にあります。議会
において修正する場合、とりわけ増額修正する場合には、首長の予
算提案趣旨を損なう修正は認められないことになっています。

「道路特定財源」
 確かに、「暫定」という名で、故・田中角栄元首相時代から30
年以上も続いているのはおかしいと思います。ただし、その不合理
を、与野党も含めて特に問題視してこなかったという歴史もありま
す。今回は、参議院で与野党が逆転したことにより、急に浮上した
だけです。もっと早くから与野党の議論を始めるべきだったと言え
るのではないでしょうか。

「福田政権の支持率 20%前後」
 福田政権にとっては、年金や長寿医療制度(後期高齢者医療制度)
の問題も重なって、最悪の状況になっていることは間違いないでし
ょう。この状況で、総選挙に踏み切るのは、恐らく困難だろうと思
います。できるだけ先に延ばし、政権の浮揚策を考え、手を打って
から、と考えるのが当たり前でしょう。

「皆が感じていること(もちろん私も含めて)」
 今回の暫定税率復活について、地方六団体は全員一致で支持して
いるのですが、残念ながら国民の支持は弱いのが現実です。

 ただし、民主党が望んでいる総選挙は、衆議院議員の任期が切れ
る来年9月近くまではないのだろうと思っています。
 理由は、解散・総選挙を行うかどうかの主導権は、最大与党であ
る自民党が握っており、その自民党は、次の総選挙で現在の議席数
(3分の2)を確保することが難しいと考えていますから、なるべ
く長く現在の再議決できる状況を維持しようとするでしょう。また、
民主党を中心とする野党が、次の総選挙で衆議院の過半数を獲得で
きる保証はありませんし、どちらかというと、与党が衆議院の過半
数を維持する可能性が高いのではないか、とも言われています。

 野党は、福田首相に対する問責決議案を提出するとかしないとか
言っていますが、法的な効力のない話ですし、ましてや解散に追い
込むことはまず無理でしょう。参議院は任期が来るまで選挙はない
のですから、参議院での野党有利の体制はこの先かなり長い間、変
わらないことも事実です。

 以上の観点から、総選挙は、当分の間ないと考えられます。今後、
60日ルールや30日ルールが適用される場面が増えるであろうこ
とは容易に推測できます。ただ、総選挙後、民主党が過半数を獲得
すれば、当然政権交代でしょうが、与党が過半数を少しだけ超えた
場合には、二院制の欠点が大きく出てきそうです。予算案について
は、30日ルールで衆議院の優位は保障されていますが、そのほか
の議案の再議決には3分の2の賛成が必要になりますから、仮に過
半数の議員がいても再議決することは難しいでしょう。

 このままでは、日本の政治が機能不全に陥り、動きが取れない状
態であるということは誰が見ても明らかで、これをどうするか。オ
ール・オア・ナッシング(all or nothing)では、
単なる対決であり、政治ではありません。話し合いによる局面打開
が必要なのだと思っています。
 しかも、このところの原油価格高騰の影響により、高騰が始まる
前の時点と比較すると、ガソリン価格に占める暫定税率の割合は小
さくなっており、受け止め方も違ってきているのではないでしょう
か。

 「話し合い政治の実現」か、「ガラガラポン(政界再編)」しか
ないのではないでしょうか。ただし、何を軸にするのか、誰が主導
権を取るのか、いずれにしろ難しいと思います。小泉元首相は「自
民党をぶっ壊す」と宣言して自民党選出の首相に当選したのですが、
今考えれば、見事にそれを実現したということかもしれません。た
だし、そんなことを言っていたら地方は困るのです。今年の秋ごろ、
すなわち地方自治体も予算編成に取り掛かるころまでには、何らか
の解決策を見つけてほしいと心から期待しています。

 今回の騒動で分かったことが幾つかあります。
(1)意見の違う組織同士が対等にぶつかりあった時には、「話し
  合い」なしでは何も生まれない・・・表面的な建前論争から一
  歩も出られない。責任ある組織が最終的な姿を描き、担保を用
  意した上で、そこに向かって妥協点を導き出すしかない。
(2)意見が違うことは仕方がないこと。ただし、信頼関係がない
  ところからは何も生まれてはこない・・・根回しや水面下での
  話し合いを否定してはいけないのではないか。むしろ、大切な
  場合もある。