現在の不況は何が原因か、多くの識者は「需要不足」を指摘して
おられます。私も同感です。ただ、不足している需要をどこで生み
出すのか、これが問題です。エコカー減税やエコポイント制度など
の効果で、多少は需要が出ているようですし、「住宅版エコポイン
ト制度」も創設されることになり、期待が膨らみそうですが・・・。
鳩山内閣の最初の方針は、投資や輸出に頼る経済成長ではなく、
民生の安定による内需主導の経済成長が必要、ということでした。
私もそれができるなら大賛成と感じたことは事実です。
しかし、よく考えてみると、経済の基盤や仕組みが内需主導型に
なっていないとできない、すなわち、方針どおりに需要を増やすこ
とはできないのではないかと感じています。国民は今どうしても買
わなくてはいけないものがあまり無いのではないか、たとえ欲しく
ても買う余裕がないのではないか、結局のところ輸出や公共事業に
頼らざるを得ないのではないか、そんな不安がよぎります。
今や景気は二番底に入るのではないかと心配されています。
景気を良くするには、世の中に需要が生まれてモノの売買が盛ん
になり、資金が回らなければいけません。そして何よりも、将来に
向けて国民が明るい展望を持てることが必要です。
公共事業不要論に乗って、予算の重点を変えて公共事業を激減さ
せてきた・・・これは民主党の政策だけではなく、自民党もその道
を歩いてきたわけです。
しかし、いまさらではありますが、世の中に資金を回す方法は、
広い意味での公共事業がやはり有効なのではないかと思うようにな
りました。公共事業や民間投資などが激減していることにより、そ
れらを受注する企業の淘汰(とうた)はすでに始まっています。で
も、現段階であればまだ公共事業の受注基盤が残っており、世の中
に資金を回すことができると思うのです。
今後、過度に企業の淘汰が進むと、このような基盤すら無くなっ
てしまうのではないか、そんな心配もしています。
世の中に資金を回すもう一つの方法として、投資の面で今まであ
まり厚遇されてこなかった中山間地域に新しい産業を興す、という
ことがあると考えています。中山間地域に資本を投下して、もうけ
ることができる地域にしていかなくてはならないと思うのです。そ
の筆頭プログラムは、付加価値の高い農林業の育成、観光・交流業、
そしてバイオマス関連事業への投資だと思っています。ただ、今す
ぐ大規模な需要を生み出す即効性はありませんが・・・。
強行採決で衆議院を通過した中小企業等金融円滑化法(返済猶予
法)が、先月30日、参議院で可決、成立しました。借入金の返済
延期だけで、どの程度の効果が出るかは分かりませんが、それでも
一定の効果は見込めると思います。ただ、この法律で新しい需要が
生まれるわけではありませんし、企業の財政規律心の劣化や金融機
関の体質弱化が心配です。そもそも企業の願いは、金融よりもモノ
(仕事)が欲しいということにあるのだと思います。
“埋蔵金”を予算に組み込む話も、行政刷新会議の「事業仕分け」
により現実的な話になってきました。
確かに、一時的には有効な手段かもしれませんが、次年度はどう
するのでしょうか。この“埋蔵金”は、独立行政法人などが過去に
ためてきた資金ですから、その法人の体質が弱くなるのは当然とし
て、二度は使えない手段であることも確かでしょう。
あえて予算に組み込まなくても、省庁の予算から関係法人に支出
される補助金を削り、“埋蔵金”である法人の内部留保を使うよう
に促がせば、同じ効果が得られるはずです。
「子ども手当」の創設も素晴らしい発想ですが、麻生政権が実施
した定額給付金などと同種のバラマキ政策であることに変わりあり
ません。ただ、一度だけの支給でない点は大きな違いです。また、
地方自治体としては、新たな負担を国から求められる心配もありま
す。
高速道路の無料化も、既存の経済秩序で頑張っている、例えばフ
ェリーや新幹線・在来線などの公共交通機関の経営にどんな影響が
出るか、高速道が低速道にならないか、地球温暖化への影響は大丈
夫か、心配は尽きません。
個人的な見解ですが、究極の“バラマキ”は、日本の山林すべて
を国が買い上げることではないかと思っています(山林に限定しな
くてもいいかもしれません)。価値が無いと判断したのでしょうか、
実質的に相続放棄されている山林も思いのほか多いようです。社会
主義的な発想で面白くないと思っている部分もあるのですが、買い
上げができれば公共事業などが実施しやすくなるという効果もあり
ますし、自然環境の保全にも大きな役割を果たしそうです。地方に
任せてもらえれば、どんどん進めていきたいと思っています(英国
に始まったナショナルトラスト運動につながるといえば、そうかも
しれません)。
先月、政府は、現在の日本経済がデフレ状況にあるという認識を
示しました。デフレの反対はインフレですが、私の記憶の中でイン
フレがひどい時期といえば、終戦直後は別とすると、昭和48年の
第一次オイルショック前後の時期です。当時、私はすでに、早世し
た父に代わって会社を経営する立場にありましたので、インフレ手
当てとして社員の給料を30%近く上げざるを得なくなり、苦しん
だことを記憶しています。
いまさらながらに思うのですが、よく倒産しなかったものです。
そのころ、デフレなんて想像もできませんでした。デフレは物価
が下がりますから、消費者として一時的には喜べるでしょう。ただ、
その反面で、企業は利益が出なくなりますから、結局は給料が下が
ることにつながります。さらに物価が下がれば、企業は経費を削る
ために人員整理をせざるを得なくなり、結果として税収も下がって
行政も困り、景気が悪くなって、さらに人員削減、需要不足が起こ
る・・・いわゆるデフレスパイラルです。これが、今日本で起こり
つつあるのだと思います。そしてこれは、現在の日本人にとって、
初めての経験と言っていいのでしょう。
資本主義の社会では適度なインフレが望ましい姿であると、識者
から教えられたことが今あらためて思い出されます。