2009年12月31日木曜日

年末考


 今日は大みそか。今年もお世話になりました。来年もよろしくお
願いします。
 今年は、市長選もあり、私にとっては、大きな節目の年であった
と思います。直前に行われた衆議院議員総選挙での“Change
(チェンジ)”や“政権交代”の風を受けて苦戦しましたが、幸い、
皆さんのご支援を頂き、辛うじて当選させていただきました。「み
んなの声が“ながの”をつくる」を基本姿勢に、皆さんと約束した
3期目のマニフェストの実行に全力を挙げる所存です。

 今回は、“理念と具体論”について、少し書かせていただきます。
 理念、あるいは理論といったものは、ほとんどの人が納得できる
ものだと思います。ですから、それに対して異論を唱える人は少な
いでしょう。しかし、具体論になると、いろいろな意見が出てきま
す。「総論賛成、各論反対は、世の常である」という状況があるこ
とはよく言われていることです。

 理念・理論はとても重要です。しかし“どんな理論でも、理論的
に正しいからといってそれを徹底していくと、人間社会はほぼ必然
的に破たんする。どの理論が正しいとか間違っているとかの問題で
はない、すべての理論で言えることである”という指摘もあります。
これは、以前から私がご紹介している数学者・藤原正彦さんの著書
『国家の品格』に出てくる一節ですが、私はこの文章に出会って目
から鱗(うろこ)が落ちた気持ちでした。まさにその通りなのです。

 広い意味での理念は、具体的にどのようなものがあるでしょうか。
思い付いたものを幾つか列挙してみます。
・貧困と争いのない平和な世界を実現しよう
・地球環境を守ろう
・すべての国民・市民の幸せを願い、差別をなくし、あらゆる違い
 を尊重し合える社会にしよう
・犯罪や事故のない安全で安心な明るい社会にしよう
・無駄を廃し、有効な資金の使い方をしよう
・真面目に働いている人が、正しく報われる社会にしよう
・弱い立場の人、困っている人が救われる世の中にしよう
・日本一いや世界一素晴らしい、美しい街にしよう

 まだまだたくさんありそうですが・・・すべて大切なことで、ぜ
ひ実現したいことばかりです。恐らく、これらの理念に反対する人
はいないでしょう。
 しかし、これを実現するための具体論になると、さまざまな立場
や考え方があり、完璧な実現を目指そうとすれば、かなりの困難を
伴うはずです(だからと言って、何もしないということではありま
せん。今、最も大切なのは、具体論、具体策です)。

 理念を一生懸命に主張する人の多くは、ポピュリズムに陥ってい
る可能性が高いと思っています。そして、私たちは、そのような主
張に流されやすいことも事実です。
 今の日本の国政は、ポピュリズムに陥っているのではないかと思
うのですが、いかがでしょうか。

 広辞苑では、ポピュリズムのことを「一般大衆の考え方・感情・
要求を代弁しているという政治上の主張・運動」と解説しています。
ポピュリズムは、国民の常識によって政治や権力の腐敗や誤りを是
正するという方向に向かうときは大きなエネルギーになり得ます。
ただし、考え方が偏っていたり、理性的でなかったり、因習などに
とらわれたものであれば、極論かもしれませんが自由や民主主義を
破壊してしまう危険性すらはらんでいるのです。

 日ごろ私は、市町村行政に関係することについての意見は申し上
げていますが、国政・県政などについては、あまり申し上げてきま
せんでした。それは、批判めいたことを言ってみても犬の遠ぼえみ
たいで、あまり意味がないと思っているからです。
 ただ、今回は大みそかですので、今年一年を振り返るという意味
から、市町村行政に非常に大きな関連がある国の政策について、雑
談的に少し意見を書かせていただくことにします。

 「入りを図りて、出ずるを為す」。これは、日ごろ私が一つ覚え
のように繰り返しているフレーズですが、今くらいこの発想が必要
な時期はないと考えています。個人でも、市でも、国家でもそうで
す。
 特に国家は、100年の大計を見渡して、子孫に借金の山を残さ
ないように、最優先で取り組むべきです。その結果、重い負担が生
じるとすれば、国民からは不満が噴出することになるのでしょうが、
これは、実行しなければならないと思っています。ポピュリズムは
廃し、毅然(きぜん)とした態度で臨むべきです。

 その手段の一つには、消費税の大幅アップがあると思っています。
アップした分は国債の返済に充当。消費税1%が約2兆円というこ
とですから、20%上げれば、単純計算で年間40兆円ずつ借金の
返済に充てられることになります。国の借金が全体で800兆円と
すれば、20年で完済できる計算です。
 消費税を税金だと考えれば高いと感じると思いますが・・・少し
インフレになったと考えれば、負担感は和らぐのではないでしょう
か。現在のデフレ環境の中では、採用しやすい施策だと思います
(極論であり、実際には景気悪化を助長することになるので不可能、
との意見はもっともですが・・・)。

 ただ、消費税には、所得が低いほど相対的に負担が重くなる「逆
進性」の問題があります。この対策として、国でも「給付付き税額
控除」を今後検討するようですが、私は中谷巌さんの著書から“還
付金付消費税”という考え方を知りました。恐らく、逆進性の問題
は、これで解消することが可能ではないかと思っています。

 中谷さんの案では、例えば消費税を20%に引き上げたとすると、
(1)税率アップと同時に全国民に等しく毎年40万円ずつ還付す
  る制度を導入する。
(2)その結果、年間消費額が100万円の人の消費税負担は20
  万円であるが、40万円還付されるので、消費税率は実質ゼロ
  になることに加えて20万円の所得補てんを受けることになる。
(3)200万円の人の消費税負担は40万円であるが、40万円
  還付されるので、消費税率は実質ゼロ。
(4)400万円の人の消費税率は実質10%。
・・・と、消費額が少ない人ほど実質的な税率が下がることになり、
逆進性が解消されるというものです。

 ガソリン税などの暫定税率廃止も、政策としてはいかがなものか
と思います。結果として、暫定税率を廃止しても税率は変わらない
ことになったようですが、昨年、衆議院と参議院のねじれ現象の影
響により、1カ月間だけ暫定期間が切れ、ガソリンなどの価格が安
くなったことがありました。確かに、家計にとってはその分の支出
が減って良かったのですが、それを手放しに歓迎できるものではな
かったように思いました。
 環境のことを考えれば、化石燃料の使用を減らす努力が当然必要
になります。単純に対策を講じるとすれば、化石燃料の価格を上げ
ることが一番効果的でしょう。
 今後、暫定税率に代えて、環境税の創設を検討するようですから、
大いに賛成です。実質的な税額は同じはずで、新たな負担を国民に
課す話ではないと思います。

 子ども手当は、所得制限を設けないことで決着したようですが、
私は設けるべきだと思います。ただ、厄介なのは、地方自治体とす
れば、所得把握などの事務が増加することで、支給に際して事務経
費が生じます。その経費を国が負担するのであればできると思いま
すが、かなり多額になりますし、難しいでしょうね(麻生政権での
定額給付金の事務経費は、すべて国が負担しました)。
 いずれにしても、地方交付税を総額1兆円余り増額することは大
いに歓迎できますが、引き換えに新たな負担が生じるようなことは
避けていただきたいと思っています。

 ポピュリズムは、大衆への迎合を優先する無責任な政治指導を指
す言葉として用いられることが多いようです。今の日本には、その
ようなポピュリズムではなく、先を見据えてリーダーシップを発揮
する政治が必要だと思います。たとえ一時的に国民を落胆させるこ
とになっても、将来に向けて、もっと戦略的な発想による政策が必
要でしょう。

 大みそかにしては、少々重い話題になってしまいました。お許し
ください。
 今年も1年間、このメルマガにお付き合いいただきありがとうご
ざいました。皆さん、どうぞ良いお年をお迎えください。