2010年9月16日木曜日

信州新町地区での移動市長室


 8月23日、みどりの移動市長室として、信州新町を中心に活動
している特定非営利活動法人「ふるさと」の皆さんと懇談させてい
ただきました。
 「ふるさと」は、指定管理者として長野市信州新町水防会館の管
理を行っています。そして、この会館をベースにして、ユニークな
事業に取り組んでいるということで、今回、訪問させていただくこ
とになりました。

 「ふるさと」の正会員は、13人。衣料品店を経営しておられる
理事長の黒岩さんをはじめ、全員、信州新町の商店主の方々です。
 以下は、皆さんからお聴きした話をまとめたものです。

主な活動内容(予定を含む)
(1)地域に根付いた「手づくりの冠婚葬祭」
(2)信州新町水防会館の指定管理
(3)お年寄りの生活支援(宅配事業)

活動の詳細
(1)手づくりの冠婚葬祭
 かつては葬儀といえば、地元のお寺や自宅で行われていました。
しかし、高齢化や生活様式の変化、式を取り仕切る年長者がいなく
なってしまったことなどから、信州新町地区でも長野市街地の葬祭
センターなどで行うことが多くなってきていたそうです。
 地元で葬儀が行われていたころには、仕出しや引き物、生花など
の需要がありましたが、地区外での葬儀となれば、それらも地区外
へ流出してしまいます。結果的には、信州新町地区の商店街の衰退
や、コミュニティーの弱体化につながっていったようです。

 このような状況の中、信州新町の商店街の店主(若だんな)が立
ち上がり、「ふるさと」を設立。地域に伝わる文化やしきたりを大
切にした「手づくりの葬儀」を請け負うことにより、地域経済やコ
ミュニティーの活性化を目指すことになりました。

 商店主の皆さんが葬儀を取り仕切るわけですが、メンバー13人
のうち9人が「葬祭ディレクター2級(厚生労働省認定)」の資格
を取得しているそうで、専門的なノウハウに基づいた運営をしてい
ます。
 地域の人が亡くなり、「ふるさと」に葬儀の依頼が入ると、メン
バーは各自の仕事を中断して、その日から通夜、葬儀の準備に着手。
水防会館で葬儀を行う場合、1階の会議室を式場、2階の大会議室
をお斎(とき)の席にするそうです。祭壇の組み立てなどの会場準
備に始まり、会葬御礼の印刷、料理の手配に至るまで、各自がてき
ぱきと役割を果たし、あっという間に準備が整ってしまうそうです。

 年間の葬儀請負件数は50~60件。お斎の料理から香典返しの
商品に至るまで、品物はすべて地元商店街から仕入れています。
 ちなみに、平成21年度の売上げは、なんと1億1,300万円
余り、地元商店街からの仕入れは約8,000万円。これだけの消
費を地元につなぎとめ、あるいは取り戻し、地元経済の活性化に結
び付けているのです。
 また、「顔見知り」の関係を生かして、生前、故人が好きだった
料理をお斎に出したり、地域のしきたりを継承したりすることも心
掛けているそうです。
 地域の人にとっても、葬祭費用が安い上、自宅に近い場所で行え
るというメリットがあります。「ふるさと」の皆さんが活動するよ
うになってから、葬儀の参列者も増えたそうです。

 このほか「ふるさと」は、結婚式を請け負ったことも4回ありま
す。葬儀同様、手づくりで親しみやすいと好評だったようです。

(2)信州新町水防会館の指定管理
 信州新町水防会館は、平成6年に信州新町が設置した施設で、会
議室などを有料で貸し出しています。長野市との合併前、「ふるさ
と」が信州新町から管理者として指定を受け、この施設の管理を行
うことになりました。本年1月の合併後も長野市がこれを引き継い
でいますので、現在も「ふるさと」がこの施設を管理しています。
 管理期間・・・平成21年4月1日~平成24年3月31日(3
カ年)

(3)お年寄りの生活支援(宅配事業)
 お年寄りの二人世帯、独り暮らし世帯を主な対象に、弁当や生活
物品を地元商店街で購入して宅配する事業で、活動開始に向けて準
備を進めているそうです。配達の際に言葉を交わすことで、安否や
健康状態の確認も併せて行い、離れて暮らす家族に、近況報告する
ことまで計画しています。
 また、配達員として、地域の元気なお年寄りや主婦の皆さんにお
願いすることも考えており、雇用創出効果もありそうです。

 この活動を始めるに当たっては、ながのまちづくり活動支援事業
補助金49万7,000円を見事に獲得。この補助金を活用して、
まずは、10軒を目標にスタートし、年度末までに30軒の受注を
目指しているそうです。今後は、補助金に頼らずに実施できるよう
にし、活動範囲も大岡、信更、七二会など、周辺地区へも広げてい
きたいと張り切っています。

 以上が、現地でお聴きした活動内容の概略ですが、若干、私の感
想を申し上げさせていただきます。

(1)信州新町の商店街は、とても頑張っていると感じました。理
  事長さんに言わせると、“店が無くなったら街が終わってしま
  う”、だから頑張っているのだそうです。
(2)このような事業ができるのは、長野市街地からの距離感が適
  当なのだろうと思います。そして、信州新町地区は、自立心が
  旺盛だと感じました。長野市の“西の都”に位置付けられてい
  くのではないでしょうか。
(3)「ふるさと」の構成員の皆さん全員が熱心で、全員が商店主
  と葬儀社という二枚看板をこなし、お客の信頼を得ているよう
  です。まさに“顔の見える”商売に徹しています。1億円を超
  える売り上げを達成しているのは、メンバーの団結力、そして、
  リーダーの力なのでしょう。

 昨年度、無作為抽出した市民5,000人を対象に実施した市の
「まちづくりアンケート」で、近所付き合いの程度について調査し
たところ、「何か困ったときに助け合う親しい人がいる」と答えた
人の割合は21.5%でした。平成15年度に行った同調査の回答
結果は30.0%であり、8.5ポイントの減となっています。
 同様に、独り暮らしや寝たきりの高齢者世帯への支援について、
「できる範囲で援助したい」と答えた人の割合は、平成15年度調
査の43.5%から今回35.2%と、8.3ポイント減少してい
ます。

 「コミュニティーの希薄化」が指摘されている昨今ですが、この
結果は、そのことを裏付けているようです。そのような状況の中で、
「ふるさと」の皆さんが取り組んでいる「手づくりの冠婚葬祭」や、
準備中の「お年寄りの生活支援」事業は、大変意義深いものと感じ
ており、心から敬意を表します。

 本年4月、各地区の住民自治協議会による活動が本格的に稼動し
ました。
 これにより、長野市の住民自治は新たなステージに入ったと考え
ており、各地区の特色を生かした地域づくりが、今後さらに進むも
のと期待しているところです。今後も「ふるさと」の皆さんが「も
うける」「新しい事業を興す」という視点を持ち、信州新町地区住
民自治協議会とともに、地域経済の活性化とコミュニティーの再生
に向けて活動を継続していっていただきたいと思っています。
 また、このような視点を持つ活動が他の地区で増えてくることも
期待しています。