2010年12月30日木曜日

年末随想(農業への想い)


 先日、インターネットを見ていたところ、明治時代初期の師範学
校について知ることができました。少し引用してみます。

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 師範学校は、卒業後教職に就くことを前提に授業料が掛からない
のみならず、生活も保障されたので、優秀でも貧しい家の子弟への
救済策の役割も果たしていた。師範学校→高等師範学校→文理科大
学というコースをたどれば、学費無料で中等学校→高等学校→帝国
大学というルートに匹敵する教育が受けられたため、経済的な理由
で進学を断念せざるを得ない優秀な人材を多く吸収した。
 この制度に助けられた人物に、明治・大正期の陸軍軍人の秋山好
古や、昭和期の軍人で元韓国大統領のパク・チョンヒ(朴正煕)
(どちらも教師を経て陸軍士官学校入学)、実業家の五島慶太(東
急グループ初代総帥、旧制上田中学校卒業後、小学校の代用教員を
経て東京高等師範学校→英語教師→東京帝国大学)らがいる。
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(秋山好古は、今評判の「坂の上の雲」でも登場していますよね)

 何を言いたいかと言うと、明治の先人たちは、新しい時代の日本
をつくるために、何が大切かを知っていたのだと思います。つまり、
教育ですよね。

 農業者とお話しさせていただくと、多くの皆さんは異口同音に
「みんな高齢者ばかりになって・・・」、「後継者がいない・・・」、
「農産物価格が安くて・・・」、「つらい仕事にくる人がいない・
・・」などとおっしゃいます。このままだと10年後、特に中山間
地域の農業は壊滅してしまう、とおっしゃる方もいます。
 では、これらを解決するためにはどうしたら良いか、いや、どう
すべきなのか・・・具体的な提案はなかなか難しいようです。

 今、二つの命題があります。
(1)農業界は人手不足で困っている
(2)世間では、依然として厳しい雇用情勢が続いている
 この二つをマッチングできないか・・・私なりに考えてみました。

 そこで、前述の師範学校です。あのシステムを今の農業に当ては
められないか、ということです。本来、国がすべきことだとは思い
ますが・・・国がしないのなら、地方自治体としてやってみる、努
力してみる価値があると考えたのです。

 一方、世の中はデフレ、需要が足りない、これらを克服するため
には、新しい付加価値をどこかに具体的に求めなくては駄目・・・
行政として、第二次産業、第三次産業にそれを求めることはなかな
か難しい。今、高い付加価値を求めることができるのは農業しかな
い、そんな気がするのです(行政が商業・工業に手助けできること
は限られているという側面もあります)。
 そして、他産業から農業へ人を誘導するシステムがどうしても必
要なのではないか、と思っています。即効性はないかもしれません
が、じっくり根本から考えていこうということです。

 長野市には、従来から新規就農者を支援するシステムがあります。
1年間農業をやってみて、この人なら農業の担い手として大丈夫だ
ろうという新規就農者を農業委員さんに推薦していただき、その方
に長野市から就農促進奨励金(40歳以下10万円、41~55歳
5万円)を支給するという制度です。毎年10人前後の方が推薦さ
れており、私から奨励金をお渡ししています。
 過去のデータを調べてみると、10年間で100人ぐらいの方が
この奨励金を受給していらっしゃいました。そして、その方々は、
現在も農業に従事しておられることも分かりました。10年間で
100人というのは大変な数字です。現在の長野市の農業を支えて
いるのは、まさにこの人たちであり、よくできた制度だと感じてい
ます。

 ただ、問題は、この100人のうち、本当の意味での新規就農者
は約1割で、大部分は農業後継者(親が農業者)だということです。
それが悪いというわけではありませんが、これでは農業の現状を維
持することが精一杯で、農業の拡大、農業者を増やす方向にはあま
り貢献できていない、そんなことも感じてしまいました。本当の意
味での新規就農者を求めるには、もう少し充実した制度が必要だと
いうことでしょう。

 新規就農者が魅力を感じて農業に取り組めるようにするためには、
就農当初に、ある程度生活費の面倒を見る、きちんと農業を教える、
農地の斡旋(あっせん)もする、地域社会が受け入れる、そんなと
ころまで踏み込まないと駄目なのではないでしょうか・・・。
 私はこのことの実現に向けて、関係者が連携して仕組みを考え、
実行する必要があると考えています。もちろん、教育が大切です。
甘い気持ちで農業を始めて挫折した方の話は、ハウツーものの本を
読んだだけでも枚挙にいとまがありません。

 先日、県の農業大学校を訪問して話をお聞きする機会がありまし
た。私が知らなかっただけで、例えば、里親制度や奨学金制度など、
実は国や県でも、十分ではありませんが、いろいろな農業者育成シ
ステムを持っていることが分かりました(農業大学校は専修学校と
のことですから、卒業すると専門士の称号が得られるそうです。
“農業専門士”ということでしょうか)。
 私が考えているのは、このような国や県の既存システムを組み合
わせて活用し、金額や期間など、それを大きく補完するシステムを
長野市などが提供する、ということです。

 具体的には、農業大学校で勉強することを原則に、ある程度生活
費の面倒を見る、そして徹底的に農業を勉強してもらい、農業社会
に入ってもらう・・・。篠原農林水産副大臣の話をお聴きしますと、
フランスでは、新規就農者に400万円ぐらい支給する制度があっ
て、10年間農業をやれば、返さなくても良いのだそうです。その
くらいしないと、農業に夢を持ち、頑張る若者が出てこないのかも
しれません。

 私としては、例えば、農業後継者には月5万円、全くの新規就農
者には月10万円、それを3年から5年程度継続して支給する、そ
の間、農業大学校と里親をやっている農業者が責任を持って教育す
る・・・大ざっぱに言えば、そんなスキームを想定しています(制
度に登録している里親は、市内に15人おられるそうです)。
 もちろん、教育が終わった後は、10年間ぐらいは長野市で農業
に従事してもらうことを原則にしなくてはならないとは思いますが
・・・。

 では、生活費はいくら支給するか、その期間はどのくらいにした
ら良いか、指導者はどうするか、ある程度経験を積んだとして、農
地をどう世話するのか、農機具や栽培用ハウスにもお金が掛かるそ
うですが、それをどうするか、住宅をどうするか・・・。
 それと、これが大切なのですが、公募を前提に考えるとして、何
人ぐらいの農業者を育成すれば長野市の農業を再生することができ
るのか、ということも考えなくてはいけません(全体のスケールを
考えて取り組むべきでしょう・・・一応の数字として240人ぐら
いかなと農政課では言っていますが・・・)。
 さらに、旧来の農業社会が新規就農者をうまく受け入れてくれる
か、年齢制限をどうするか・・・。考えればいろいろ問題はありそ
うです。

 究極のバラマキ政策みたいで気が進まない面もありますが、農業
は大切だ、農業をやろうよ、そういう掛け声だけでは、つらい、も
うからない、夢を持てないと思われている農業に、新たな専業就農
者は期待できないと思うのです(市民菜園などで趣味的に取り組ん
でいる人は増えていますが、それだけでなく、私は専業農家をつく
る必要を感じています)。
 国の戸別所得補償という政策も出てきました。しかし、大規模農
業者を育てることに重点を置いていることに加え、本年度は稲作限
定で、市内の対象農業者があまりにも少なく、ほとんど恩恵があり
ません(来年度からは、小麦、大豆なども対象になるそうですから、
長野市にもメリットがありそうですが)。

 新規の農業者が生まれるためには、加えて、現在の雇用情勢を少
しでも改善するためには、“農業が魅力的で夢が持てる”と思える
ようにする施策が必要だと思っています。そしてそれは、社会を安
定させる安全弁の役目が果たせる施策であってほしい、正直そう思
っています。

 今年も1年間、このメルマガにお付き合いいただきありがとうご
ざいました。

 迎える新年は、明るく希望に満ちた年となることを期待したいと
思います。皆さまには、くれぐれもご健康に留意され、ご健勝で輝
かしい新年を迎えられますことを祈念しております。