2012年5月17日木曜日

「節電の夏」を前にして


 先週10日、市役所では夏季の軽装「クールビズ」を10月31
日までの期間で始めました。昨年より5日早めてのスタートです。
国と県が5月1日から実施する情報はありましたが、4月27日に
中部電力からこの夏の同社管内の電力事情の説明を受けてから実施
時期を決定したこともあり、国・県より若干遅れての実施となりま
した(でも、今年の連休明けは、クールビズには寒くて困りました)。

 中部電力の説明では、まず、最大電力需要を、昨年来の利用者の
節電意識の定着による抑制量を60万kW程度と見込んだ上で、
2,567万kWと想定しています。これに対して電力供給力は、
液化天然ガス(LNG)を燃料とする上越火力発電所の7月からの
一部稼働などにより、2,875万kWを見込んでいるとのことで、
他の電力会社へ100万kWの電力を融通しても、電力供給予備率
が安定供給の目安となる約8%相当になり、結果として昨年夏のよ
うな節電をお願いしなくて済みそうだとのことでした。安心しては
いけないのでしょうが、ホッとしています。

 中部電力のように電力供給に比較的余力のある電力会社がある一
方、関西電力など原発依存度の高かった電力会社などは大変厳しい
状況です。5月14日、政府は今夏の電力需給対策について、北海
道、関西、四国、九州電力管内で計画停電を準備する方針を表明し、
また、関西電力管内では、企業の節電を法律で義務付ける「電力使
用制限令」の検討に入りました。余力のある電力会社管内でも、企
業活動や生活に無理のない範囲で節電に協力し、可能な限り電力を
融通し合い、日本経済や国民の生活が停滞することがないよう、国
を挙げての対応が重要だと考えています。

 長野県の電力は、今日に至るまで南の東海地方から信濃幹線とい
う太い送電線で送られてくる電力に頼っていますが、もしもの場合
を考えて、北からも長野県へ電力を供給できるようにする必要があ
るということで、「上越に火力発電所を造りたい」との話があった
のは、私が長野商工会議所の副会頭を務めていた20年ぐらい前の
ことだったように記憶しています。上越火力発電所の全面稼働は
2014(平成26)年とのことですが、長期の計画を立てて取り
組んできた中部電力の慧眼(けいがん)に敬服すると同時に、一つ
の発電所を造るのには、大変長い時間を要し、長期的なビジョンが
無くては語れないものだということを考えさせられました。

 5月5日、42年ぶりに国内にある原発の全てが停止しました。
福島第一原発の事故原因の究明が遅々として進まず、安全性の担保
もないため、なかなか国民の信頼回復ができませんし、また、国の
方針が確定しないせいか、原発がある自治体は、原発の必要性と危
険性を訴える世論のはざまにあって大変苦労されています。原発関
連の仕事に従事している方の雇用や原発に係る交付金の減少なども
自治体にとっては大きな問題です。
 原発停止による電力不足に対応する火力発電所の再稼働も、電力
会社にとって燃料費の負担が重く、排出される二酸化炭素の量も当
然増えることになり、国の地球温暖化防止政策に矛盾してきます。

 長野県には、原発はありませんので、コメントすることは失礼だ
と思っています。ただ、人ごとと傍観することは卑怯(ひきょう)
だとも感じています。原発を持たない自治体としては、再生可能エ
ネルギーによる発電の普及に向けた取り組みや節電以外に、電力不
足に協力する方法はないのでしょうか。電力不足が社会にどんな影
響を与えるのか心配です。

 ここにきて、新たなエネルギー政策に関する国の方針がようやく
見えてきた感があります。報道によりますと、まず、再生可能エネ
ルギー普及を促す「固定価格買い取り制度」を検討する経済産業省
の委員会において、電力の買い取り価格が、太陽光発電によるもの
が1kW時当たり42円、大規模な風力発電によるものが23.1
円などと、おおむね民間発電事業者の要望に近い高めの水準で決定
されました。これにより、新規エネルギー事業者の積極的な参入が
期待でき、電力市場の自由化が加速することは歓迎すべきでしょう
が、その一方で、火力や原子力による電力会社の平均発電単価約6
円と比較すると、太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電力
の価格は格段に高く、その差額が電気料金に上乗せされ、私たち使
用者の負担が大きくなることが懸念されています。経済産業省の試
算では、上乗せ額は標準的な家庭で月70~100円程度になると
のことです(ずっとこの程度の上乗せ額であるならば、私の予測よ
りかなり小額です)。

 その他、次のような課題もあるそうです。まず、新たに送配電施
設を整備しようとすると巨額の設備投資が必要になるため、新規事
業者は発電した電力を電力会社が所有する送配電施設を借用して送
電することになり、それには電力会社に高い使用料を払うことにな
ります。また、太陽光発電や風力発電は天候によって発電量が左右
されるため、蓄電設備が必要になったり、電力が不足した場合、電
力会社から不足分の電力を通常より数倍高い料金で買うことになっ
たりするそうです。また、小水力発電に取り組もうとする場合は、
河川使用の許可や水利権の交渉などの手続きにかなりの時間を要す
るようです。

 課題はたくさんありますが、再生可能エネルギー普及に向けた具
体的な動きも各地で出てきています。長野県についていえば、県内
最大で、国内でも有数の規模となるメガソーラー(出力が1MW
(メガワット、1MW=1,000kW)程度以上の大規模太陽光
発電所)が富士見町の県営富士見高原産業団地の未分譲地約18h
aに計画されるとのことです。想定する発電規模は約2,700世
帯分の年間電気使用量を賄う9MWで、県内で既に稼働している飯
田市の「メガソーラーいいだ」(1MW)や、松本市の飲料メーカ
ーが同社敷地内で計画するメガソーラー(1.5MW)を上回る大
規模施設です。阿部知事も、本年度を「信州自然エネルギー元年」
と位置付け、再生可能エネルギーの普及・拡大に積極的に取り組ん
でおられます。

 長野市では、日照時間やまとまった土地の確保などの立地条件か
ら、現段階ではこうしたメガソーラー施設の具体的な計画は進んで
いませんが、1999(平成11)年度から家庭や企業に補助金を
出して、建物の屋根や屋上を利用した太陽光発電システムの普及を
促進しています。昨年度の申請件数は、過去最高の1,204件で、
補助金額は1億5千万円を超えています。設備規模はこれまでの累
計で約18MWに上り、これは、県が富士見町に計画するメガソー
ラー2カ所分に相当するものです。
 また、商店街街路灯や各地区の防犯灯のLED(発光ダイオード)
化などへの省エネ改修補助事業も積極的に進めています。商店街街
路灯についていえば、昨年度の新設および改修件数は31件で、補
助金額は約1億2千万円になります。

 東日本大震災以降、エネルギー問題に関するさまざまな情報を見
聞きしますが、5月9日の新聞に、政府がこれまで推進してきた原
発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理事業を、コ
スト面や技術面から見直すとの記事がありました。翌10日には、
イギリスの科学雑誌に核燃料の再処理を中止し、使用済み核燃料は
全て地中廃棄することが適当との意見が掲載されました。使用済み
核燃料の再処理工場がある青森県六ヶ所村への影響などを考えると、
これも難しい問題になるなと感じています。

 いずれにしても、地球環境に負荷の少ない再生可能エネルギーで
発電した電力のシェアが拡大することは喜ばしいことです。しかし、
普及には、まだまだ時間がかかるでしょう。経済の発展、環境問題、
安全・安心な生活など、さまざまな角度から議論と検討を重ねる必
要がある人類の大きな課題です。

 現代社会は、ずいぶんと便利になりました。昔に逆戻りすること
は難しいのかもしれませんが、私の若いころを振り返ってみると、
24時間営業の店も、あふれるような自動販売機もありませんでし
た。しかし、そんなに困った記憶はありません。社会が便利になり
過ぎたがために、例えば、隣近所でのちょっとした融通や困った時
の助け合いが減ってきて、結果として地域コミュニティーが希薄に
なってきたという一面もあるのではないでしょうか。私たち一人一
人が、環境に優しい生活を実践することが、地域コミュニティーの
復活にもつながるのかもしれません。
 今、エネルギー問題を通して、もう一度、本当の豊かさとは何か
を考え直す時期に来ているような気がします。