「中山間地域」から連想される言葉にはどんなものがあるでしょ
うか。
「里山」「風光明媚(めいび)」「農家民泊」というポジティブ
なイメージのものから「過疎化」「野生鳥獣対策」「空き古民家」
などといったものまで、多岐にわたりますが、そのいずれの言葉も
中山間地域の実態を表しています。
現在、長野市は2度の平成の大合併により、森林エリアを含む中
山間地域の面積は、市域の4分の3を占めるまでになっています。
また、長野市全体の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)が
約25%であるのに対し、中山間地域では約37%(いずれも平成
22年10月1日現在)となっており、いわゆる市街地と比較して
10年から15年ほど高齢化が先行していると考えられます。
そのような状況の中、市では私が所管する副市長プロジェクトの
一つとして、「中山間地域活性化推進プロジェクト」と銘打って取
り組んでいるものがあり、二つのポイントから侃侃諤顎(かんかん
がくがく)と議論をしています。
中山間地域の皆さんの声を直接お聴きする機会は、地区ごとに開
催する「元気なまちづくり市民会議」や「中山間地域市民会議」な
どがありますが、日頃から中山間地域にお住まいの皆さんと接して
いる職員から情報を得ることも大切だと考えています。私は、担当
する業務内容が異なる職員が寄り合って、それぞれが持つ情報を共
有し、そして互いの意識レベルをそろえていくことが、日頃の業務
の質を高める上でも重要だと考えています。関係部局が一堂に会す
る副市長プロジェクトはそうした側面も持っています。
さて、一つ目のポイントは、文字通り地域活性化という視点から
の議論で、活性化するためには中山間地域の中で、ある程度の収入
が得られる手だてを用意することが重要だということです。
住まいが中山間地域で勤め先が市街地ですと、日々の残業やお酒
の付き合いなどのことを考えると、次第に勤め先近くのアパートに
移り、やがては一戸建て住宅やマンションを購入するというケース
は容易に想像できることでしょう。若者を中心として中山間地域か
ら人々が離れていった事例には、こうしたケースが多いとお聞きし
ています。
こうした中、全国的な中山間地域の活性化の成功例として有名な
のが、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」株式会社いろどりの活動
だろうと思います。この「葉っぱビジネス」とは、日本料理を美し
く彩る季節の葉や花、山菜など「つまもの」を販売する農業ビジネ
スです。テレビのCMでご存じの方もいらっしゃるでしょうが、四
国の小さな町で起きた奇跡の実話として「人生、いろどり」という
映画にまでなったというから正直驚きです。
人口2千人弱、高齢化率約50%の町ですが、葉っぱの収穫に忙
しく、寝たきりの方が非常に少ないとお聞きしています。人生には
何よりもやりがい・生きがいが必要だということを語っている好例
でもあります。
また、長野市でも、成功している事例として篠ノ井信里地区の有
限会社たんぽぽがあります。地元農家の女性たちが中心になって、
地産地消をテーマに地元農産物を加工・販売している会社で、国の
補助事業の導入をしているほか、市としても、資本金への出資とい
う形で支援しています。地元に雇用が生まれ、収入が得られる活動
は、本当に素晴らしいことだと感心しており、とにかく頑張ってほ
しいと思っています。
こうした成功事例に共通しているのが人、すなわちリーダーの存
在です。いろどりにもたんぽぽにも素晴らしいリーダーがいらっし
ゃいます。
そこで、何とかそうしたリーダー、やる気のある人の発掘も含め、
中山間地域の活性化に向けた来年度からの新規事業として、中山間
地域で起業する際の支援制度を創設できないかと検討を進めていま
す。
この制度には二つの顔を持たせたいと考えています。一つは、中
山間地域に愛着を持ち、現に住んでいる住民の皆さん自らのやる気
とアイデアを支援するという面。
そして、もう一つはIターンなどによる地域外からの皆さんを誘
導するための仕掛けという面です。
里山の豊かな自然の中でゆったりとした人生を送りたいという価
値観を持つ人々の存在は、全国各地で語られ始めています。こうし
た人々に長野市の中山間地域に目を向けてもらえるきっかけになれ
ばと思います。
また、市が昨年度から始めた「新規就農者支援事業」を活用され
た皆さんの中からも、中山間地域での営農に加え、農産物加工や農
家レストランなどの事業を起こそうとする方が出てくれればと期待
しています。さらに、現在盛んなIT技術を活用したビジネス起こ
しなどへの活用も大いに考えられると思います。
支援を受けるための基本的な条件を挙げると、中山間地域に
・雇用が創出されること
あるいは、
・農作物など地域資源を活用することで経済波及効果があること
の二点です。
具体的には、事業のアイデアと経営スキームを示していただき、
外部の専門家も加わった審査会で審査し、事業収支など財務計画か
ら現実性の高いものに対して財政支援を行うことを考えています。
中山間地域を元気にする魅力的な提案を楽しみにしています。
もう一つ考えられる雇用創出と収入源確保の方法として、公共施
設の指定管理受託があります。特に、中山間地域には観光施設など
多くの市有施設があり、指定管理者制度を導入しています。
以前から機会あるたびにお話しさせていただいていますが、市有
施設は中山間地域の安定した雇用の場となりますので、地元商工会
などが中心となって指定管理の受託に参加していただければと思っ
ています。
議論の二つ目のポイントが生活支援です。
前にお話ししたとおり、中山間地域は高齢化の進行が著しく、独
居高齢者の割合も比較的高い状況にあります。何かあったときに救
いの手が差し伸べられ、日常生活を安心して送ることができるよう
に、現在、庁内関係部局の間で打ち合わせを行っております。今後、
支所や消防署はもちろんのこと、警察署、郵便局などの公共機関の
ほか、電気・ガス・水道などの検針業務を行っている民間事業者な
どにも広く加わっていただいたネットワークが出来ればと思ってい
ます。
また、買い物にも支障を来たしているとの住民の皆さんの声をお
聴きしており、このいわゆる「買い物弱者」対策も進めていく必要
性を感じています。ただし、この点については地域により事情が異
なっているため、地域ごとにきめ細やかな対応が必要になってくる
と考えています。
現在、関係部局で事業者と意見交換を行っており、「民の力」を
生かし、行政がこれを支援することで、住民の皆さんが安心して生
活できる環境づくりを進めていきたいと考えています。
中山間地域で課題となっている、高齢化に伴う買い物弱者問題な
どは、いずれ長野市全域で発生し得る課題でもあります。中山間地
域で実施した対策は、必ず今後に生きてくるものと確信しています。
ところで、中山間地域の皆さんを悩ませている問題に野生鳥獣被
害があります。中山間地域の人口減少に加え、森林に手が入らなく
なったなどの複合的原因により、長野市ではイノシシやニホンジカ
を中心に被害が増加傾向にあります。現在、中山間地域に設置され
た「有害鳥獣対策協議会(委員会)」と猟友会の皆さんに、市街地
も含む長野市全体の安全を守るべく、防護柵設置や駆除対策などを
中心に懸命な努力をしていただいています。先日も長野市街地でク
マが目撃されたほか、全国的にも「札幌市街地でヒグマが続出」「
上越市高田市街地にイノシシ出没」というニュースがありました。
野生鳥獣対策は他人事ではなく、自らの課題であるという意識をも
って注目していただきたいと思います。
また、中山間地域に根付いている食文化や伝統的な行事は、地域
ならではの多様性を持っています。「○○○らしさ」とは、必然の
中から生まれた文化に根差したものという考え方があります。中山
間地域を守っていくことは、すなわち「長野らしさ」を守っていく
ことであるとも思います。
中山間地域では毎年、さまざまな行事や工夫に満ちたイベントが
開催されています。皆さんもぜひ足を運んでいただくようお願いし
ます。