2003年5月1日木曜日

閑話休題


 連休中なので、少し趣の違う話題を・・・・個人的な考えをお話
ししたいと思います。それは「自治体の長」と「会社の経営者」の
違いについてです。(会社の経営者と言っても中小企業の経営者と
いう意味です)

 私は約40年間、会社の経営に携わってきました。親から引き継
いだ家業の会社でして、決して大企業ではなく、株式の上場もして
いません。いや、できなかったと言う方が正しいのかも知れません
が、そんな会社の社長が突然「市長」という全然違う社会に足を
踏み入れてしまい、戸惑うことが多いのですが、その辺も踏まえて
市長と社長の違いを考えてみました。

(経営者は、もしかすれば倒産するかも知れないという観念、
そして経験を持っている)
 一番大きな違いかも知れませんが、会社はもしかすると倒産する
かも知れないという観念が常に頭の隅にあります。私自身、会社経
営については、山あり谷ありの本当に厳しい経験をしております
し、スタッフもそれほど多いわけではありませんから、孤独な判断
を常に求められるのが経営者であると思います。特に現在のような
大不況の時代では、どこの経営者も社員を路頭に迷わせてはならな
い、自己責任で全ての判断をしなくてはならない、といった気苦労
が常にあるわけです。

(市長は大勢のスタッフに囲まれている)
 そこへいくと市長はちょっと違います。大勢のスタッフに囲まれ
て仕事をしている。時に意見が違って議論になることはありますが、
孤独という感覚は全くありません。市の行政スタッフの体制は「最
終責任は全て市長、その代わり市長は絶対である」ということが実
に徹底しているのです。方針さえきちんと決めれば、どんな難問で
もスタッフがそれぞれ役割を分担して、実行に向けて努力してくれ
る。行政においては当たり前のことのようですが「市長は絶対では
ない、相反する意見をもっと出して欲しい、もっと議論しよう!」、
贅沢に聞こえるかも知れませんが、それが今の私の不満です。

(個人保証)
 前の話と関連がありますが、中小企業が借金をする際、銀行はほ
とんどの場合、個人保証を要求します。他の取引先も場合によって
は要求します。個人保証がある場合、倒産すると個人財産は全て没
収され、最終的に全ての借金を清算するまでは、いつまでも個人が
請求されるわけですから大変です。会社が倒産しないために必死に
なるのは当たり前でしょう。その反面で、近年において大手の銀行
や証券会社、そして住宅金融専門会社(住専)などが倒産しました
が、マスコミの報道で知る限り、倒産した会社の経営者が借金をす
る時に個人保証をしていなかったようですし、融資する時も個人
保証をとっていなかったのは事実でしょう。もし、個人保証をして
いたならば、バブル期におけるあのようなずさんな融資はできなか
ったと思います。

 長野市も大きな借金を背負っていますが、個人の支払い責任はあ
りません。このことは、私にとって疑問が残る点ではありますが、
これは、企業と自治体との大きな違いです。

(経営者にとって、税金問題は大問題)
 市長の立場から言えば、企業に税金を沢山払っていただきたいと
いうことは当然ですし、経営者も税金を払うことは、企業の社会貢
献のもっとも重要なことであるとの認識はあります。しかしながら
企業経営者にとって、一生懸命努力して利益を上げても、約半分を
税金として取られてしまうというのも、偽らざる実感です。その反
面で、赤字になっても前の黒字で税金を払った分を戻してもらうと
いうのは、実質的に難しいですし、寄付金等を損金算入できる寄付
は集めやすいけれど、通常の寄付金はなかなか集まらない。これも
税金の制度によるものが大きいと私は感じています。

 一つの提案ですが、企業の保有土地について時価会計を採用すべ
きということを提案したいと思います。バブルの時代に企業が高い
土地を買い、その後の政策によって土地価格が暴落したにもかかわ
らず(これは国の責任が大きいと私は思います)、税会計では高い
価格のままの評価になっているのです。これは、土地の場合には評
価を下げても税法では損金算入を認めないというもので、このこと
は、株式と土地の大きな違いであり、この税負担が企業にとっては
大きな負担になっています(土地の損金算入については、ようやく
国においても新たな動きがありそうなのですが・・・)。その一方
で、昔から所有している土地については、その価値が上がっていて
も比較的安い税金で済んでいるという矛盾が生じているのです。
 
(自由に発言し、アイデアを即座に実行できる立場)
 会社の社長にとって、唯一の、そして一番生き甲斐を感じるのは、
自由な発想を維持し、自由に行動できること、勝手と聞こえること
も自由に発言できることです。言い換えれば努力をすればするほど
報われる、それだけの喜びがあるということです。もちろんある程
度余裕が無いと出来ませんし、お客様は神様ですから、お客様の
おっしゃることは「ご無理、ごもっとも」という面があって、本当
の自由があるかということになると、異論があるところですが、
ただ、市長に比べてかなり行動の自由度は高いし、独断と偏見が
許される立場であり、それが企業発展の原動力になる場合が多い
のだと私は思っています。

 もう一つわがままを言わせていただくとするなら、市長職という
のは、昼夜・曜日を問わず、自由になる時間が極めてわずかになっ
たことも大きく変わった点です。

 以上長々と駄弁を弄しました。連休での漫談をお聞きいただき有
難うございました。