官僚の天下りについては、かなり以前から議論が盛んです。また、
今年の4~5月には、国の事業仕分けも行われましたので、関連す
る記事を目にする機会も多くなったように思っています。
これまで私は「天下り禁止」なんて当たり前だと単純に考えてい
たのですが、詳細な調査記事などを読んだ結果、そう簡単な話では
ないことを痛感させられました。そして、細かく見れば見るほど、
日本社会に深く浸透しているシステムだということもよく分かって
きました。一首長の立場でうっかり口を出せるほど、簡単なことで
はないようです。
あくまでも報道を通じて知った範囲ですから、どこまで事実を反
映しているのかは分かりません。ただ、あまり正確でないとしても、
国民目線、市民目線に立った場合、どうしても納得できないことが
あると私は感じています。
高級官僚の方々には、多くの場合55歳前後で退官せざるを得な
い暗黙のルールがあるそうです(昇任競争があって、そういう方々
のモチベーションの維持を考えると無理もないのかもしれません)。
市町村などでは、60歳の定年まで勤め通すことがほとんどですか
ら、国でもそうなると良いのですが、国の現状を考えると、再就職
先が必要になるのは仕方ないことなのでしょう。
天下り先には大きく分けて、営利目的組織(企業)と非営利組織
(公益法人など)があるようです。
営利目的組織は、民間企業が主体でしょうが、民間企業がその人
の能力を買って採用するのですから、問題ないはずです。
ただ、談合に介在することや、コネを使って仕事を取ることは厳
禁すべきでしょう。入札がルール通りに行われていれば、あるいは
政治家の不当な口利きや介入さえなければ、それほど大きな問題は
ないと思います。官僚の方々の能力を民間企業が買っているのです
から、むしろ歓迎すべき状況です。
問題は、非営利組織への天下りとその報酬です。天下り先の組織
には、研究機関、大学、社団法人、財団法人、独立行政法人など、
いろいろあるようですが、根本的には、まずその組織が社会にとっ
て必要なものかどうかの検証が重要だと思っています。そして必要
な組織だと検証されたなら、優秀な人が天下ることは歓迎すべきこ
とです。
ただ、国の補助金や発注で成り立っているような組織では、天下
りの人の報酬額を厳密に監査する必要がありますし、退職金は廃止
すべきでしょう。
天下り先での報酬額は、本当にその職責や職務に見合ったものな
のでしょうか。60歳までの現役並みの報酬は理解できますが、そ
れ以降の高額報酬には疑問に感じます。ましてや著しく高額な退職
金や、退職金の二重・三重取りは許せないと思います。その組織に
は、当然ですがプロパー職員もいるわけで、その人たちの士気も大
切にしなくてはなりません。
いずれにしろ、退職後も、能力の高い方々が社会のために尽くす
ことは、重要なことだと思いますし、当然、社会のためになること
です。公務員にも優秀な人がたくさんいますから、有効に使わなく
ては国家の損失だと思います。もっと活躍の場をつくる必要がある
と感じています。
そこで、私は次のような提案をしたいのです。
一つは、退官した官僚を政策秘書として公費で国会議員全員に付
けたらどうか、ということです。新人議員が増えている状況で、優
秀な元国家公務員がお手伝いすれば、議員としての実力がはるかに
発揮しやすくなるのではないでしょうか。もちろん決定権は議員に
あります。公務員としての心構えがきちんとしていますから、不正
にはくみしないと思います。
もう一つは、地方自治体へ派遣するというのはどうでしょうか。
人材が不足している小さな自治体もあるようですから、国がある程
度の報酬を出すことにすれば、自治体は喜ぶのではないでしょうか。
国の統制を心配する人、政策や事業に精通した人をうっとうしく思
う人もいるでしょうが、それは首長・議会の能力と受容力の問題で
す。国の政策を理解してもらうためにも、有効な手段だと思います。
国家公務員の天下りは、全部が悪いわけではないと思います。
「小さな政府」をつくるためには、少数精鋭、適材適所の職員配置
の中での天下りは必要だと思います。一方、退職した優秀な人の経
験を生かすことは大切ですし、高いモチベーションを保てるような
仕組みも必要です。
60歳の定年でみんな引退してしまったら、もったいないだけで
なく、国家的な損失になる可能性もあります。年金支給が65歳か
らになったこともあり、次のステージを用意しなくては、生活に困
るということもあるでしょう。さらに、社会も天下りを必要として
いる面があると私は感じています。
ここまでは、随分前に書いていたのですが、7月21日付けの産
経新聞に曽野綾子さんの『「天下り」の活用』という文章が載って
いました。有名な方と同じ意見と申し上げるのは失礼ですが、まさ
に私の考えていることと同じなのです。少し長くなりますが、以下
に転載させていただきます。
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世論というものは同調する人が多いから世論になるのだろうが、
私はいわゆる官僚の「天下り」について少し別の感じを持っている。
官僚だって、再就職して老後の生活を成り立たせなければならな
い。
(中略)
「天下り」が悪いのは、それが法外な高給で遇されるからである。
原則として妻と自分の生活費が出せればいいのが老後だ。(中略)
まず貯金を減らさずに食べられて、月に数回女房に気兼ねせずに、
仲間と赤提灯(あかちょうちん)に行ける程度の金銭的自由が確保
されればいいはずである。
だから「天下り」はむしろうんと安い給与にして堂々と採ればい
いと思う。地位の名称としては「理事長」でも「会長」でもなんで
もいい。ただ外部調査があった時、はっきりと次のことが明確にな
ればいいのである。
退職金など一切なし。
給与の額は(今の感覚で言うと)30万円前後でよろし、である。
通勤用の専用の自動車などなし。年を取ったら歩いて通うほうが、
体と、何よりも精神的な訓練にいい。
(中略)
「天下り」をする人たちの中には、やはり長い経験による知識と
人脈の蓄積を持つ人が多いのだ。それを利用しない法はない。本当
に役に立つ人材が、払う金に見合う仕事をしてくれるなら、私企業
も歓迎するはずだ。
(中略)
「天下り」を一概に悪いとする論は、今後高齢化社会に向って、
誰もがもっと長く働かねばならなくなり、人材もとことん使わねば
ならなくなる「モッタイナイ」の大原則にも反する。もちろん霞が
関時代、恐ろしく権力的だった悪名高いトップが、堂々と国際機関
などに就職している話を聞くと、私のような甘い話は一笑に付され
るのだろうが、「退職金なしの低給与」の原則を維持すれば、半分
ボランティア精神で働いてもらって少しも悪くはない。それができ
ることこそ、エリートの証明なのである。
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以上、略した部分も含めて、曽野さんの意見、私はおおむね賛成
です。
違うのは、長野市では30万円も払えません。それと、給与は全
員一律ではなく、自己責任での判断が求められ、重い責任を負う役
職であれば、ある程度は高くても良いかなと感じています。