2011年12月29日木曜日

農業への想い、もう一度


 今年も、最後のかじとり通信を書く時期になりました。
 昨年12月30日付けのかじとり通信で、農業者を増やしたいと
主張したところ、思いのほか早く準備・調整が進み、今年の4月か
ら新規就農者支援事業を始めることができました。
 現在まで12人の皆さんが、助成金の受給者に決まっており、既
に長野県農業大学校に入学したり、市内の里親農家の指導を受けた
りして、専業農業者への道を歩んでおられます。年間目標人数の
30人にはまだ至っていませんが、来月1月にもう一回、本年度分
の募集をしますので、目標に少しでも近づいてくれることを期待し
ています。この事業を10年間続ければ、年30人で合計300人
の農業者が生まれるわけで、長野市の農業の大きな担い手になるは
ずです。

 国でも長野市の取り組みに刺激されたかのように、来年度から同
じような事業をスタートさせると聞いています。長野市は、対象者
を原則として40歳未満としたのですが、国の制度では原則45歳
未満とするそうです。細かい違いは別として、国でもやってくれれ
ば、長野市の負担は減ることになりますし、もっと違う事業に資金
を回せるかもしれません。

 昨年も紹介させていただいたことですが、長野市には、この新制
度とは別に、平成5年度から行っている就農促進奨励金支給事業が
あります。この事業は、資格などについて細かい規定を設けずに、
農業委員さんに推薦していただき、認定審査会で認定を受けた人に
対し、奨励金(40歳以下10万円、41~55歳5万円)を交付
している制度で、今年は24人が選ばれました。昨年は今年と同程
度の25人でしたが、一昨年までは毎年おおよそ10人程度でした。
新規就農後2年以上経過した就農者という応募資格を昨年度から1
年以上に緩和した効果かもしれませんが、人数が倍以上に増えたこ
とは、素晴らしい成果です。
 実は、以前この奨励金の受給者約100人の就農状況について追
跡調査をしましたら、ほとんどの人が農業に引き続き従事している
ことが分かりました。今の長野市の農業において、こうした皆さん
が果たす役割は大きく、この事業は大変有益なものであると思って
います。

 12月20日、市役所で就農促進奨励金の交付式を行い、24人
の皆さんに奨励金をお渡ししました。その際の皆さんの決意表明は
本当に立派で、意欲に満ちており、農業への強い思いを持って取り
組んでおられることがよく分かりました。
 これまでサラリーマンとしてお勤めされていた人がほとんどでし
たが、農業のことをよく知っておられましたので、大部分の皆さん
が農家出身という感じでした。農業委員さんが推薦されただけに、
この皆さんなら長期にわたって農業に従事し、長野市の農業発展に
貢献してくれそうだなあと感じました。

 農業経営には、広い農地を確保する必要があります。そのため、
こうした農業支援策をむやみに拡大し、農業者を増やせば良いとい
うものではないと感じています。ただ、当面は農業者を増やしなが
ら、農業で生活できるシステムをつくることが必要でしょう。

 かじとり通信に「新規就農者支援について」を書いてから1年足
らずで、事業がある程度形を成してきたのには、ちょっとびっくり
です。通常は、初年度に制度設計をし、庁内の議論、有識者を含め
た検討委員会で協議、議会への説明などを行い、次年度から募集と
いうように時間がかかるのですが・・・。もちろん、関係機関の協
力が大きかったのでしょう。それにしても、新規就農者の支援が国
を巻き込むほどの事業になりそうなことは、国の政策も含めて行政
としては異例と言えるほど早い対応でした。私が普段よく言ってい
る「いい加減が良い」ことの典型的な実例かもしれません。時間を
かけて完全な状態にしてから始めるよりも、未完成でもスピード感
をもって実施し、その後修正を加えていく方が効果的なのです。

 これほど早く長野市が事業を進めることができ、また国も同様の
事業を始めるのには、次のような要因がありそうです。
(1)農業者の高齢化と後継者不足が限界に近づいている
(2)農業委員、農協など、地域の農業関係者の危機感が大きい
(3)国は農業政策をいろいろやっているが、再生に向けての決定
打にはなっていない
(4)長野に国の農業政策をリードする政治家がいた
(5)長野市の制度は、市単独事業として取り組める規模であり、
ある程度の成果が期待できた
(6)長野市の制度は地域の実情から出てきたものであり、反対が
なかった

 しかし、10年後ぐらいに、長野市の農業が隆々としていなくて
は、私の政策判断が誤りだったということになります。祈る気持ち
で期待しています。

 長野市の農業生産額は、果樹が圧倒的に多く、米などの穀物は少
ないようです。そこで、今後、農作物の売り上げを伸ばすためには、
品質の優れた果樹を中心に外に向けて販売していくことが重要にな
ります。
 今、先進的な農業者は、インターネットでの販売に取り組んでお
り、生産者の紹介や商品の特徴など細かい情報がそこには掲載され
ています。昔はよく普通の商売でも「顔の見える商売」と言いまし
たが、まさにこれは顔の見える商売と言えそうです。
 もう一つは、海外に販路を求めることも重要だと思っています。
海外で食べる果物の味の悪さを経験されたことのある人も多いと思
います。長野市の果物が宝物のようにすら感じられます。素晴らし
い長野市の果物を何とか世界に売っていきたい。そんな野望を抱い
ています。

 今年最後の市の政策会議で、TPP(環太平洋経済連携協定)が
心配などという内向き思考では駄目、攻めの農業を開始しようと、
その方法論を検討するよう関係部長に指示しました。
 同じころ、長野県農政部が、「目指せ農業所得1,000万円」
という事業を打ち出したことが新聞報道にありました。若手農業者
の企業的経営能力を高めるもので、「信州農業MBA(*)研修事
業」というのだそうです。詳細な中身については分かりませんが、
農業に具体的な光が当たり始めたということであれば、これほど素
晴らしいことはありません。

 市内には農業者に「8桁会」という団体があることは、以前かじ
とり通信に書かせていただきました。8桁とは1千万円の位ですか
ら、県の事業は、まさにこれと同じように、農業所得を増やそうと
いう政策だと感じています。農業は「もうかる商売」なんだと分か
れば、若い人も大いなる夢を描いて、この業界に入ってきてくれる
と私は信じています。

 2年続きで、年末のかじとり通信は、農業再生に懸ける私の想い
を書きました。
 来年こそ、明るい希望に満ちた良い年にしたい!皆さん良い年を
お迎えください。

*MBA:Master of Business 
Agriculture