2013年8月15日木曜日

次の時代の施策 その3~少し視点を変えて


 前回のかじとり通信では、さらなるソフト事業の必要性について
書いてみましたが、もう少しお話しさせていただきます。

 まずは、「教育」についてです。「教育」をつかさどるのは、ご
存じのとおり教育委員会で、市長が所管する市長部局とは一線を画
し、独立している存在です。従って、私があまり多くを申し上げる
ことは僭越(せんえつ)とは思いますが、教育に関しては、さまざ
まな思いがあります。私は、子どもを3人育て、小・中学校のPT
Aの役員をやらせていただき、市PTA連合会会長、県PTA連合
会会長までやらせていただきました。さらに、市教育委員も2期務
めさせていただきました。行政とは違いますが、(社)信濃教育会
出版部の無給の理事長もやらせていただきました。

 一番大切と思ったことは、良き家庭の必要性です。私の考えが古
いのかもしれませんが、子どもたちは親に見守られ、家庭の団らん
のある環境が大切だと考えており、それが子どもたちにとって社会
への第一歩だと思っています。
 その上で、子どもたちに最高の教育を、ここ長野市で提供したい
と常々感じているということです。それは、当然社会人に対しても
同じです。東京に行かなくても、自分の子どもや孫が最高の教育を
市内、もしくは県内で受けられるようにしたいと考える人は多いの
ではないでしょうか。もちろん勉強だけではなく、いろいろな分野
で活躍する基礎を小・中学校の時代に築くことが大切と常に思って
いました。

 長野市の教育レベル、とりわけ市立小・中学校に関しては、学力
の向上に積極的に取り組み、子どもたちの学力も定着してきていま
す。まだ満足とは言えませんが、文部科学省が実施している全国学
力・学習状況調査やNRT(全国標準学力検査)などの結果も生か
しながら、現状を伸ばしていけば大丈夫と考えています。気になる
ことは、東京、名古屋など、私立の小・中学校が多い地域で、親が
公立学校に信頼を置いていないように感じることです。私立学校に
信頼を置く風潮が高まっているように感じます。この風潮が長野市
にも波及してくるのではないか・・・心配です。

 自由が大切であることは承知していますが、人間の基礎をつくる
義務教育段階では、特別教育(私立校)の必要性を現段階では認め
たくありません。ただ学校を認可するのは、県の権限ですので、な
んとも悔しいのですが、公立学校の先生方の頑張り、さらには保護
者の皆さんの関心に期待しています。

 私が小・中学校のPTAの役員をやらせていただいた昭和50年
前後、高校受験の過度な競争や学校間格差をなくすことを目的とし
て、同じ通学区内の複数校がグループをつくり受験生の選抜を行い、
合格者を各校に平準化して配分する、いわゆる総合選抜制案や高校
入試改善案などが、県教育委員会から提案され、議論になりました。
 私たちPTAは、大いに勉強し理論武装して、生意気ですが県教
委に対抗しました。議論の末、学校ごとの格差をなくし、高校受験
の成績順にどこかの高校に合格するという「結果の平等」ではなく、
学校間には競争原理を取り入れ、受験生にはそれぞれ特徴のある学
校を自由に選択できる「機会の平等」を目指すべきだという、われ
われの主張を受け入れていただけたと思っています。

 その後、総合選抜制は、東京都や京都府、その他いろいろな県で
一時的には採用されましたが、結果は公立高校のレベルの低下、私
立高校の全盛につながり、親の負担する教育費の高騰を招いたと思
っています。結局、この4月の入学者を最後に総合選抜制は全国か
ら姿を消し、私たちの主張の正当性が認められたと思っています
(考えてみれば、30年間以上が経過しています)。
 個々の高校が努力を重ね、特色をつくり、高校同士が切磋琢磨
(せっさたくま)する。生徒たちも自分の進路について自らの意志
が発揮される可能性がある。そのことにより多様性が生まれ、生徒
の個性を伸ばす教育につながると、当時私は信じていました。
 今後、統合などにより閉校となる高校もあるかもしれませんが、
人口減少の時代、それはそれで必要なことなのだと考えざるを得な
いと思います。

 8月1日のかじとり通信で、長野市の骨格を再整備する必要性に
ついてお話しさせていただき、その一つとして、長野県短期大学の
4年制化について触れさせていただきました。長野市の人口構成を
見たとき、19歳から20代前半が特に少なく、その原因の一つと
して学生の県外流出が挙げられています。市内には、信州大学教育
学部や工学部、清泉女学院大学、長野工業高等専門学校などがあり
ますが、大学の絶対数が不足していると言わざるを得ないというの
が現状です。大学、大学院および高等専門学校の学生数について他
市と比較しても、長野市が約4,500人であるのに対し、松本市
は約8,900人、金沢市は約18,000人で、長野市の学生数
が少ないことは顕著です。18歳人口の減少が深刻ですから、学校
の数を増やすことは無理でしょうが、長野市としては、大学都市と
まではいかなくても長野県短期大学の4年制化を実現して、若い人
の人口を少しでも増やしたい。何としてでも実現したい案件です。
市街地のにぎわい、活性化といった観点からも若者が集うことは大
変重要なのです。

 もう一つは、「福祉」についてです。福祉分野は範囲も広く、な
かなか難しい課題が多いと思っています。何でも行政に頼る発想に
は賛成できませんが、市町村行政は福祉が一番大切ということは昔
から言われており、事実なのだろうと思います。
 ただし、社会保障給付サービスの水準はナショナル・ミニマム
(*)として国が決めるべきで、国が給付水準をきちんと担保しな
いと、県や市町村ごとに独自の判断で基準を決定することになり、
その結果、市町村は競争せざるを得なくなるのです。いや、生活保
護などについては、現段階では国はしっかり取り組んでいるとおっ
しゃる・・・でもその他の、例えば子どもの福祉医療費の給付を何
歳までにするかといった対象年齢の引き上げの判断、あるいは保育
園の保育料は、実質的には市町村ごとに決定しているわけで、その
結果市町村は独自に給付サービスの上乗せをやっていますから・・
・市町村同士の競合状態(他の市町村の様子を見ながら上乗せ分を
決めている)が続き、過度なサービス競争や不均衡が生じているこ
とは、正直困っています。給付水準が統一されていないことは、国
全体で考えると良いことではありません。

 全ての人に手を差し伸べるような優しい行政が望まれることは当
たり前です。しかし、どこまで行政がやるのか・・・あれもこれも
と要求されるのは総合行政たる市町村行政の宿命ですが・・・現在
市の予算の中で、私が市長就任以後、「民生費」が最大の予算項目
になっていますから、成長投資に予算が回りにくいのは事実です。
市長に就任して初めての2001(平成13)年度予算は、土木費
(土地買収費を含む)が最大でした。

 結局は、最重要事項(市民要望の高いもの)は、生活保護費と同
じように、国や県が事業の優先順位をどう付けるかを決めて、サー
ビスの水準など国がしっかり市町村に明示することが基本だと考え
ています。しかし現状は、市民と直接向き合っている市町村が責任
を負っているというのが実情なのです。
 市町村とすれば、国・県の支援をどう得ていくか、長野市の財政
が耐えられるか・・・そして、今後増大していく行政の負担を軽減
するために一番大切なのは、民間事業者がどこまで元気を出せるか、
ということに帰結しそうです。

 2週にわたり、ソフト部門についてお話ししましたが、ハード部
門も決してもういいということではありません。10事業ある大規
模プロジェクト以外の事業を考えてみました。

 まずは道路です。このことについては、7月18日のかじとり通
信でもお話しさせていただきました。(1)国道406号の西長野
地区(長野県自治会館付近から茂菅大橋までの間)の道路整備、
(2)川中島町四ツ屋地区から篠ノ井布施高田地区までの間に計画
されている道路都市計画道路「川中島幹線」、(3)古くなった相
生橋の架け替えと取り付け道路の整備、(4)広域ごみ焼却施設の
建設に合意いただいた大豆島地区の道路網(市道のほか県道もあり
ます)、(5)東外環状線「国道18号長野東バイパス」、(6)
県営の農道である「上水内北部地区豊野幹線」(通称:広域農道北
信五岳道路)、(7)都市計画道路「北部幹線」。これらに加え、
県道塩崎バイパスの早期完成(今年度完了予定です)などがありま
す。どれも地元にとっては、大切な道路です。

 道路以外でも、城山公園全体構想も考える必要があると感じてい
ます。長野市で一番歴史のある公園を整備し、素晴らしい地域にし
たい。善光寺、長野県信濃美術館・東山魁夷館を中心に、城山公園、
旧蔵春閣、城山公民館を含めた大きな構想を作り、実現に向けて努
力したい。県も巻き込んでの取り組みが積極的にできれば早く実現
するかもしれません。
 
 最近急浮上してきたテーマは、長野県短期大学の4年制化に伴う
問題です。学部構成などが議論されていますが、もう一つ、大きな
問題は、アクセス道路や学生数増による敷地の狭あい化など大学周
辺の環境整備についてです。県は三輪地区の現在地に新県立大学を
造るとの方針を打ち出してこられました。県と市の間で検討を進め
ていかなければならない問題だと考えていますが・・・都市構造の
根幹に触れる重要な課題です。

 さらには、篠ノ井支所、篠ノ井公民館、篠ノ井市民会館、南部図
書館・・・篠ノ井駅の西口の土地を含めた篠ノ井地区の全体構想に
ついて、建物の耐震化も含めて検討したいと考えています。
 現在の大規模プロジェクト事業のめどが付いたら、次は茶臼山、
篠ノ井中央公園、そして南長野運動公園、さらには松代地区を含め
た長野市南部の全体構想だと市民会議の席上で申し上げたことがあ
ります。

 弁天公園、南向公園など、以前からある市街地の都市公園につい
て、計画を加速する必要もあります。そういえば、更北地区の犀川
沿いにあるNTTグラウンドも長野市の都市公園計画の中にあるの
です。

 ビッグハット周辺の土地利用の話として、長野赤十字病院を改築
したいという話が出てきています。診療をしながら改築をしていく
必要があるわけですから、駐車場整備を含めた大きな構想ができる
かどうかです。何年か後の大きな問題になりそうです。

 長野駅から善光寺までの中央通りを中心に、公衆トイレが不足し
ていると以前から感じていましたが、市民の方や長野商工会議所か
らも中央通りにはトイレが足りないというご意見を頂いています。
現在、担当部局において、新幹線金沢延伸、善光寺御開帳を見据え
準備を進めています。いずれにしても、「歩きたくなる街」、コン
パクト・シティーを目指そうという点では合意されてきていると感
じていますので、その実現に向けて、商店街と一緒になって街のに
ぎわいを演出していきたいと夢見ています。

 長野市が計画造成してきた産業団地は、ほとんど売り尽くしてし
まって、今後工場誘致の余裕があまりないことも問題です。バブル
時代に産業団地を開発した多くの自治体が、売れ残ってしまって困
っている話に比べ、長野市は無駄な投資をせず、慎重に進めてきた
ことは正解だったと思いますし、自慢してもよいと思います。反面、
ものづくりという面では一歩遅れたのかなとも感じています。
 ただ、長野市に進出したいという企業から土地が欲しいという相
談があった場合、ちょっと対応が難しいことになりそうです。もの
づくり企業が足りないと言われている長野市ですから、そういうお
話にはすぐさま対応したいのですが・・・国からは、新たに工業用
地などの造成事業を行う場合は、地方自治体の財政負担を軽減する
ため、第三セクターなどが事業を行うよう指導があり、新たな産業
団地の造成が難しくなっていることから、担当課は、民間の不動産
会社から土地情報を得て、企業に紹介していくなどと考えているよ
うです。しかし、ちょっとそれでは対策が弱いかなあと心配してい
ます。海がないため埋め立てによる用地の造成ができない長野市で
は、最後は農地転用などによる農地や山林の利用といった方法に帰
結するのかもしれませんが、関東農政局や県との関係、そして長野
市の長期計画が根本的に重要です。

*ナショナル・ミニマム:国家が国民に対して保障する最低限の生
活水準